mad dog -final- 11

 

「Hello…ケンの携帯で合ってるか?」

 

聞き覚えのある声が電話から聞こえてきて

久々に聞く英語に戸惑いながらも俺は

声の主と話を始めた

 

「ケンですが…失礼ですが…」

俺の言葉に安心したのか

声の主が話を始めた

 

「B.Pだ…久しぶりだな…今話して大丈夫か?」

「大丈夫ですよお久しぶりですどうしたんですか?

   今そちらは…俺今台湾に居ないんですよ」

俺の言葉に驚いた様子も無くB.Pは話を続けた

 

「今俺も台湾に来てるんだ

   ケンはいつこっちに戻る予定だ?」

その言葉に俺は嫌な予感だけが頭をよぎる

 

「サラに何か…あったんですか?

   まさかサラはまだ戻って無いんですか?」

話をしながら俺はすぐにでも台湾に戻れる様に

使い慣れたバッグに最低限の荷物を纏める

飛行機は探せば何かしら見つかるはずだ…

 

「これから急いで空港向かいます

   今日中には台湾に戻れると思うんで」

「慌てなくても事務所に俺も居る予定だから

   そっち優先で大丈夫だからな…」

そんな言葉が耳に入る余裕もなく

 

俺は曖昧に返事して電話を切ると

急いで空港に向かい直ぐに取れるチケットで

台湾へ向かいサラの事務所へと向かった

 

 

サラがあれから戻っていないの?

何かトラブルに巻き込まれたのか…

でもB.P達と一緒の仕事だって言ってたはずだ

 

その話さえ嘘だったのか?

サラが俺に嘘をついて居なくなったのか?

頭の中でグルグルと色々と浮かんでくる中

俺の乗ったタクシーがサラの事務所の前に止まった

 

少しでも落ち着こうと扉を開ける前に

小さく息を吐いて扉を開けた

 

「孝天さん…飛んできてくれたんですね」

陳が俺を迎えてくれたが挨拶も返さず

俺は本題に入る

 

「B.Pが来てるって…2階か?」

「おぅ…早かったな

   本当にあれからすぐに飛行機飛び乗ったのか」

くわえタバコで2階から下りてきたB.Pが

坊主頭を掻きながら声をかけてきた

 

「サラが戻ってきて居ないってどういう事ですか?

   一緒に仕事するって…」

「とりあえず荷物置いて落ち着いて話そうや…」

俺はその言葉に何も答えず荷物を乱暴に置くと

グラスを見せるB.Pに話を続けた

 

「サラに何かあったんですか?

   こんなに連絡なしでおかしいでしょう」

「…俺の口から言えることは

  …サラはこのまま戻らないかもしれない

   それだけだな」

その言葉を聞いて俺より先に陳と王が慌てて

駆け寄ってきた

 

「どういう意味ですか!サラは戻らないって

   戻れないじゃなくて戻らないって!」

「…言葉の通りじゃねぇの?

   俺も正直困ってるよこんな事になって」

「一緒に仕事してたんでしょ?

   それなら今どこにいるかも解らないんですか?」

王が冷静に訪ねて陳に座れと促した

 

「確かに俺達は一緒に仕事してたよ

   俺達の本部にも関わる重要な案件だったからな

   手こずったけど何とか解決したけどな」

B.Pは新しいタバコに火をつけ大きく吸い込んだ

 

「ま、2週間程で仕事が終わったんだが

   そこそこの相手だったからまぁ1週間ほど

   休んでたんだよ

   俺は本部でサラの昔の仲間はL.Aでな

   それぞれが自分の場所で

   で、また落ち着いたら報告に集まる予定だったんだ

   今までもそうしてたから今回も何も問題無いと思ってな」

 

「てっきりこっちに戻って来てるとばっかり思ってたんだよ 

   アイツもHOMEはもうこっちだって言ってたからな…

   そうしたら陳から連絡貰ったらまだ戻って無いっていうだろ?」

話を聞いていた俺は随分のんびりしてたものだと

イライラしながらも黙っていた

ここでそれを責めた所でサラが見つかる訳じゃ無い

 

「心当たりは有るんですか?サラの居そうな場所は?」

俺の言葉にB.Pの口から出た答えは予想外なものだった

 

「今のところ見当もつかないな…

   なぁ…サラは探して欲しく無いんじゃないか?

   少なくとも俺はそう思ってる…」

 

「何言ってるんですか!サラがここに戻りたく無いとか

   俺達や…孝天さんに会いたく無いとか…

   ありえないでしょう!」

陳が声を荒げてそう言い返していたが

俺の耳には殆ど入ってこなかった

 

 

サラは自らの意思で俺たちの前から姿を消した…

何か理由が有るはずだ

理由も無くサラが消える訳がないんだ

俺と2人で出かけようって約束したんだ

…あれだけ嬉しそうに楽しみにしてたんだ

 

「サラがコッチに来る前に何か様子がおかしい所とか

   無かったか?

   俺達からの連絡以外に他から何か…」

B.Pの言葉に陳と王が顔を見合わせた後に

思い出した様に話を始めた

 

「居なくなる前ずっとサラの所に病院のファン先生から

   連絡があった記憶が…何回かあったよな?」

王が陳に確認すると陳も頷いていた

 

「…病院から?俺は聞いてないぞ?ケンは聞いてるか?」

俺は顔を歪ませ首を横に振った

 

「どこか具合が悪かったんですか?

   最近はそんなに怪我した事も無かったし

   以前ほど仕事にも出ていなかった感じも…」

俺の言葉に陳も王も頷いていた

 

「まぁ…アイツの場合はリスクが高い部分が多いからな

   普通に生活するにも気を使わないといけない事もあるしな

   まぁ、俺達の方でもただ戻って来るのを黙って待っているつもりは

   無いからな…他の国の支部にも声かけてみるつもりだ」

 

「コッチに連絡来たら直ぐに本部に連絡します」

陳の言葉に俺も頷いたが内心はショックを受けていた

 

俺とサラの関係は今までの積み重ねて来たモノは

何だったんだ…

2人だけで生きる為にと入れたTattooも意味無かったのか?

 

何も言わずにしかも俺の帰る日を聞いた上に

2人で何処かに行こうって決めたのも嘘だったのか?

…もう何が本当で何が嘘だったのかわからなくなる

サラの言葉の全てを疑ってしまうんだ…

 

俺は下を向き髪をかき乱しため息を吐いた…

「…大丈夫ですか?」

 

陳が強い酒を入れたグラスを俺の目の前に差し出した

 

「…正直言って大丈夫じゃ無いな

   ショックでどうにかなりそうだよ」

隠す事なく自分の気持ちを陳に吐き出した

 

「俺とサラの関係って案外大した事無かったんだな…」

自分で言った言葉にショックを受けてグラスの酒を

一気に煽り咽せて咳き込んでしまった

 

「何言ってるんですか!そんな訳無いでしょう!

   きっとサラさんに何かあったんですよ!」

「連絡もしないでか?!何も言わず消えなくちゃいけない程の事がか!」

陳に八つ当たりしてもどうにもならない事も判ってる…

 

「まぁ…こっちに連絡来るなり何か判ったら直ぐ知らせるよ

   ケンは学校に戻った方が良い…

   俺はサラを待ちながらここの仕事引き継ぐから

   アジア支部は他にも有るからな…閉める訳にはいかないからな」

B.Pがそう言いながら俺の肩に置いた手を跳ね除けた

 

「何言ってんだ?学校に戻れ?学校なんてっ!」

俺が言い終わらない内にB.Pが俺の襟首を掴み

無理矢理立たせてそのまま壁へと押し付けた

 

「あ?学校なんてだ?の程度の思いでココを離れたのか?

   それなら何で行かないでサラの側にずっと居なかった!

   離れてでもやりたい事があったんだろうが!!」

 

「…サラは俺達が絶対に見つけてやる

   だからお前は自分がやるべき事をやれよ…

   サラが戻った時に自分のせいでお前が途中で

   夢諦めたなんてなったアイツが責任感じるだろ…

   だから学校に戻れ…」

B.Pは俺にさっきとは違ういつもの飄々とした表情で言った

 

「俺達が必ず見つけますから!」

王も陳も俺にそう言うとクシャクシャな笑顔で笑った

 

「判ったよ…早く映画監督になって戻ってくるから

   何か判ったら直ぐに連絡くれ…

   些細な事でも構わないので…お願いします」

B.Pに頭を下げて俺は無理に笑顔を返した

 

サラは戻ってくる…

今はそう信じるしか無い…

 

俺は学校に戻る事にした