mad dog -final- 10

 

年の瀬に俺は予定通り台湾へと

また戻ってきていた

 

今回はサラと二人で少しのんびりと

出かける予定もある

二人が出会いもうずいぶんと経つが

初めての事だった

 

俺は今回学校の授業で使っている

カメラを一緒に持ち帰ってきていた

 

今までも何度か趣味で写真を撮っていたし

サラにカメラを向けると露骨に嫌がられて

レンズを手で覆い隠されたり

撮れたとしてもとてもじゃないが

使える代物では無かった事が多かった

 

それでもサラの気が付いていない隙に

ふと見せる表情をカメラに収めたりして

後から苦笑いされたり中指を立てられたりした

 

ほんの短い時間でもサラの姿を

映像に残せると良いな

俺はそう考えながらいつものように

サラの待っているだろう店へと向かった

 

いつものようにドアを開けて

店内に入る

「あ・・・孝天さん・・・おかえりなさい」

 

いつものようにカウンターにいる陳が

俺を出迎えてくれた

 

「ただいま・・・サラは?」

 

姿の見えないサラはきっと二階だな

俺はそう思いながら尋ねると

 

陳からはいつもと違う答が返ってきた

 

「サラさん・今留守にしてるんです」

 

「あぁ・・・買い物か?」

 

俺は何の気無しにそう尋ねると

 

「今・・・本部に呼ばれて留守なんです」

 

「え?いつ頃戻るって?」

まぁ仕方ないよな仕事の用事なら

でも俺と出かける予定もあるんだから

たいしてかからないだろうと思っていたんだ

 

「今回はいつまでって言って行かなかったんですよね

   普段も言って行かない事が殆どだから

   あまり心配しないでも大丈夫ですよ」

陳の言葉がいつもならすんなり耳に入るのに

今日に限ってかえって不安を煽られていく

 

「今回はタイミングが合わないかもしれないですけど

   戻ったら連絡一番に孝天さんにしますよ」

王も俺に気を使ってなのか明るい表情で俺に言った

 

「そうだな…今度会ったらサラから直接話を聞くよ」

俺はこれ以上2人に心配をかけない様に

明るく振舞って答えた

 

きっと戻ってきて俺に悪かったと電話してくる

そう思いながら俺は台湾を後にした

 

学校に戻ってからもサラからの連絡を待っていたが

 

いつまで待ってもサラからの連絡は来なかった…

 

今直ぐでも飛んで帰りたかったが

しばらく長い休みは取れず

ただヤキモキとした気持ちでただ待つしかなかった

 

そしてようやく連絡が来たのは2ヶ月過ぎた頃で

電話を取った俺の耳に聞こえたのは

待ちかねていたサラの声ではなく

思っても見なかった人からだった