人生楽しんだモン勝ち(29)
愛の占い師としての素質は生まれ持ったもので、確かな未来を見続けて来たことで無難な人生を歩き続け今まで楽しいと思ったことは一度もないような気がする
だが、この春から愛は東京の高校に通い、実家を出てひとり暮らしをしている
母から引き継いだバイトもそれなりに順調で、はじめは苦手だと思っていた高尾と緑間ともいつの間にか仲良くなっていて新しい生活をそれなりに“楽しい”と感じている
けれど不慣れなことも多くて、最近手に入れた携帯電話は、操作にはなれたものの電話には慣れなかった
『そろそろ会場を出なければならないので切りますね』
愛は誠凛高校の監督、相田リコから掛かってきた電話を半ば強引に切ってしまった
静かになった携帯電話を見つめて『ハァ』と小さく溜息をつく
愛にとってため息をついた事も初めてのことだ
本人は全く気がついていないのだが・・・
携帯電話を鞄にしまうと愛は出口に向かって歩き出した
けれど、まだ出入り口が混雑していた
女の子達が出入口を塞いでいるといっても過言ではない
(どうしましょう)
途方に暮れていると先ほどカバンにしまった携帯が着信音をならした
携帯の着信表示をみるとそこには“黄瀬涼太”の文字が・・・
『もしもし篠崎です』
―もしもし、森山です―
『森山さん?試合お疲れ様でした』
―篠崎さんも見に来てくれてありがとう。直接お礼が言いたいんだけどこれから食事でもどう?―
『はい。あ、でも、みなさんのご迷惑でなければですが・・・』
―全然大丈夫!むしろお願いします―
『?えっと、よろしくお願いします?あ、でも今、出口がすごく混んでいてまだ会場から出られないので少し遅れるかもしれません』
―ああ、そういう事か・・・今出入り口?―
『はい』
―じゃ、選手の控え室がある通用口Bまで来てくれる?―
『えっと、通用口Bですね。わかりました』
―じゃ、そこで待ってて?迎えに行くから―
『はい』
食事に誘われることは黄瀬からのメールでもわかっていたことなので了承する愛
(でも何故、黄瀬くんの携帯で森山さんがかけてきたのでしょうか?)
ふと考え込んでしまいそうになる思考を振り払い愛は通用口Bに急いだ
指定された場所まで来るとそこには“関係者以外立ち入り禁止”の看板が立ててあった
(これ以上先には進めません。どうしましょうか?)
立ち入り禁止の看板の前でオロオロとしていると
『ゴメン!待たせちゃった?』
と森山が走ってやって来た
『いえ、今来たところですが、走ってこられたのですか?』
若干息の切れた森山に愛が心配する
『これくらい大丈夫!日頃から走り込みはしてるから』
『試合終わったばかりで疲れているのに、気を使わせてしまったようで済みません』
試合は黄瀬を中心に進んではいたものの、全員が黄瀬任せというわけではなかった
むしろ、全員が良く走っていた
一試合終わったばかりの選手、しかも先輩を走らせたことに愛はひどく落ち込んでしまう
その時、バシィという音と共に森山が前のめりに倒れた
『つか!廊下は走るんじゃねぇ!!』
びっくりしすぎて声にならない愛の目の前で森山は笠松にシバかれていた
『森山先輩!携帯返してくださいっす!』
シバかれている森山の手には黄瀬の携帯が握られていた
黄瀬が無事に携帯を取り戻して笠松はようやく森山を解放する
そして黄瀬の後ろには海常高校スタメン選手が全員揃っていた