2015(平成27)年5月31日 両国国技館 白鵬を太刀持ち、日馬富士を露払いとして還暦土俵入を魅せた13代 九重親方(元横綱千代の富士)だが、この翌年61歳でその短い人生の幕を閉じる。なお九重親方の葬儀は後援会の主催でしめやかに行われた。
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は全て架空であり、実在のものとは関係ありません。
もし、実在の団体及び人物を連想させるようなネーミングが出て来たとしても、それは偶然似たような名前のキャラクターが登場しているだけのことです。
関連団体及び、そのファンからのクレームは一切受け付けておりませんのでご了承下さい。
『弟子のことでこれだけ多大なご迷惑をかけたのは事実。一兵卒として私もゼロから、ゼロに戻してスタートするように弁護士さんと協議していきたい。 (今回の事件は)師匠の私に責任があると思う。まだ20歳で将来があるので、ぜひとも寛大な処置をお願いしたい』
2017年10月に発生した貴ノ岩暴行事件以来相撲協会からの暴力根絶を謳い、出羽海一門・春日野部屋の暴行事件など過去の不祥事をマスコミにリークすれば、報復として貴乃花一門・大嶽部屋、大砂嵐(前頭)の無免許運転での事故(現役の力士は自動車の運転は禁じられている)が取り上げられ引退に追い込まれるなど、ワイドショーの司会者以外は誰も喜ばないような不毛なリーク合戦が続くなか、何となく隠蔽体質の伏魔殿にたった一人で立ち向かう正義漢! というイメージが出来上がり、そんな民意を背に強硬姿勢を貫く貴乃花親方であったが、そのような状況を足下から崩壊させる事件が勃発する。
2018年3月18日 地方巡業で息の合った初っ切り相撲を披露し会場を沸かせていた貴乃花部屋の双子力士をご存知だろうか、貴乃花親方が信望し大口のタニマチでもある京都府宇治市にある龍神総宮社という、オカルト雑誌ムーなどで取り上げられそうな人類滅亡などの終末論を謳う明らかにヤバイ系の新興宗教団体なのだが、兄弟揃ってここの教祖様(教祖親子)の名を四股名に付けられるという、何とも痛ましい境遇にありながらも明るく振る舞っていたのだが、兄の方が十両に昇進した途端、衆人環視の控え室で付き人に殴る蹴るの暴行を加えるという不祥事を起こしてしまう。
暴力根絶を声高に謳い、どのような暴力行為も刑事事件にすべきと、相撲協会と徹底抗戦の姿勢を崩さなかった貴乃花親方だったが、流石にこれはダメージが大きかったようで、内閣府に陳情していた貴ノ岩暴行事件の告発状を取り下げ、自身も一兵卒としてゼロからやり直すので、どうか弟子の処分に関しては寛大な処置をお願いします。と、態度を一変させ、完全降伏、白旗を上げる格好になった。
相撲の世界で師匠と弟子の関係といえば親子も同然といわれるが、子供というのはいくら愛情を持って育てたつもりでも、どれほど厳しく躾けたつもりでいても、ときとして間違いを犯してしまうことがある。
そんなときに親は、子供を厳しく叱りながらも、自分の育て方に間違いが無かったのかと自問し、そのすべてが自分の胸に突き刺さる。
そして迷惑を掛けてしまった相手方に詫びを入れる際、地面に頭を擦り付けながらこのように懇願するのだ。
『どのような処分でも受け入れます。しかし、どうか我が子の未来を完全に閉ざしてしまうことだけはお許し下さい』
今回の貴乃花親方のとった行動は、そんな師弟愛を感じさせる美談として捉えることも出来るが、ひとつ引っ掛かるのは、その子を想う気持ちは伊勢ヶ濱親方とて同じだったのでは無いだろうか…
物事はどちらか一方の主張が100%正しく、対立している側が完全に悪であるということはまずあり得ない。
そして同じことを取り上げたとしても、どちらの立場に立って語るかによって全く別の話なってしまうということは、1984年のUWFやその他ブームに乗って出版された(各々が自分に都合よく語っている)関連本を見れば明らかだと思うが、ここは貴乃花親方ではなく八角理事長側の視点から話を整理してみることにしよう。
今回の騒動で対立の構図が表面化した2人だが、この対立は2015年の北の湖前理事長が亡くなる少し前から始まっており、そこには小林慶彦という相撲協会の外部顧問がキーパーソンとして登場するのだが、話を進める上でこの人物にも少し触れる必要がある。
『北の湖の張り手を貰えるなんて、こりゃ〜縁起物やで』
2004年10月24日 錦糸町の会員制スナックで接客にあたった当時28歳の女性従業員が北の湖理事長よりセクハラと暴行(下着に手を入れ乳房を弄られ、その手はスカートの中にも…何度も逃げようとしたが、その度に平手で背中を叩いて押さえつけられた。これは後に頚椎損傷と診断される)を受けたと警視庁に被害届と告発状を提出し、これが受理されたため正式な事件として新聞などでも報道される事態に至った。
これが事実ならば元横綱の理事長が一般人女性に暴行を加えたという、貴ノ岩暴行事件どころではない大スキャンダルなのだが、この騒動は北の湖理事長が週刊誌などを通じて『この件は妻にも話してるが、私はやってない』などと開き直っているうちに、いつの間にかにウヤムヤとなり立ち消えになってしまっている。
このとき事件のもみ消しに奔走したのが小林氏だといわれているのだが、これを足掛かりに徐々に擦り寄り、2012年2月 危機管理政策顧問という名目で日本相撲協会に潜り込むことに成功した彼は、自分と敵対する勢力には興信所を使ってスキャンダルを洗い出し、マスコミにリークして失墜させるなどの手段を選ばぬダークなやり口で事務方のトップにま登り詰め、その後は北の湖理事長の威光を背に相撲協会に関する様々な利権を悪用し、関係業者からリベートを受け取る裏金顧問として君臨するようになる。
2013年11月 さらなる利権を求める裏金顧問は、両国国技館の改修工事に関わるリベートの共有を当時理事会No.2のポジションに居た先代・九重親方(元横綱千代の富士)に持ち掛け、共犯関係に持ち込むことで利権の拡大を画策するが、『そんな金が有ったら、少しでも工事費用を安くして貰え』と逆鱗に触れた挙句、理事会に内密で進めていた歴代の力士の肖像権をパチンコメーカーに売り渡すという計画も表沙汰になり頓挫してしまう。
このやり取りをもって『ついに九重が腰を上げてくれた』と親方衆が胸を撫で下ろしたのも束の間、九重親方に5ヶ月間の出場停止処分… もとい
翌2014年1月に行われた理事選では、九重親方が最下位の5票しか獲得出来ず(パチンコ疑惑をネタに九重親方がクーデターを企てていると進言された北の湖理事長は、九重親方に回すと約束していた出羽海一門の5票を友綱親方に回すように指示)落選するという大番狂わせが起こる。
これはあちらの物語でいう所のフロント・背広組と現場サイドの対立と同様の構図に見えるが、この男の場合はそんな生易しいものではなく、神社長のポジションにショウジ・コンチャと田中正悟をいっぺんに並べたようなペテン師、タチの悪いサイコパスといえば分かるだろうか?
パチンコ台に歴代の横綱が実写で登場するという屈辱的な展開は水際で食い止められたもののその代償は大きく、選挙後、2階級降格という左遷人事を受け、以降2度と理事に返り咲くこと無く冷遇され続けた九重親方は、生涯相撲協会を恨んでいたという話だが、2016年8月 国民栄誉賞を受賞した昭和の大横綱の葬儀が、協会葬では無く後援会の主催で行われたというのだからその確執の深さが伺える。
※この件に関して協会外部理事の宗像紀夫危機管理委員長(元東京地検特捜部長)は、『この金は既に返しているので問題無い』と不問に付した。この動画をupした業者は『その後追加で1200万円、合計1700万円を渡し、いっさい返して貰っていない』と主張しているのだが、協会的にはその辺の事実関係は重要では無かったようだ。
2016年1月 新たに八角理事長体制に移行した相撲協会は、北の湖前理事長時代の負の遺産で有る裏金顧問の解雇を通告するが、これを不服とした小林氏は相撲協会に対して顧問職の解雇無効を訴える訴訟を起こすが、逆に協会側も在職中に裏金を受け取るなど背任的行為があったとして1億6500万円の損害賠償(現在は調査が進み、3億8650万円に増額)を求める訴訟を起こし、泥沼の法廷劇に発展する。
約4年間に渡り協会を食い物にし、兄弟子である九重親方を陥れた裏金顧問を八角理事長が信用する筈がないということは、あらかじめ予想されたことで、それをなんの策も講じず、ただ手をこまねいて見ているような男では無い。
『 なんでずっと一緒にやって来た小林さんを解雇する必要があるんですか、再雇用は出来ないんですか?』
『言っときますけど、あの人を敵に回すと大変なことになりますよ』
小林外部顧問の解任決議が理事会に挙がった際、声を荒げて反対し、協会が損害賠償訴訟を起こしている要注意人物であるにもかかわらず、その後も外部顧問の復職を求め続け八角理事長と正面から対立する理事が存在する。
現役時代から『懇意になった整体師に洗脳されている』と、実の父親である藤島親方を動揺させ、引退後はタニマチ制度の廃止を訴え、Jリーグのようなサポーター制度を目指そうと提唱しながらも、いつの間にやら怪しげな新興宗教の教祖様を大口のタニマチに迎えるという、サイコパスとは無類の好相性を誇るあの男。と言えば大方想像は付くと思うが、ここでようやくあの親方の登場となる。
八角理事長による裏金顧問の追放劇に徹底抗戦の姿勢を見せたのは、貴乃花親方と伊勢ヶ濱親方の二人の元横綱だった。
貴乃花親方としては、八角理事長はあくまでも繋ぎであり、北の湖前理事長の真の後継者は自分であるという思いがあり、伊勢ヶ濱親方にしても元横綱の自分にも当然の如く理事長になる権利があり、八角体制の打倒に協力しておけば、後々自分にも順番が回ってくる。
おそらく二人共、そのようにそそのかされていのではないだろうか?
現役生活のすべての取り組みにガチンコを貫き、22回の優勝を記録した平成の大横綱。
その強さと横綱としての品格は群を抜いており、白鵬がこの先いくら優勝記録を伸ばしたところで、平成の大横綱・貴乃花を超えたと言われることはまず無いだろう。
それほどまでに現役時代の横綱・貴乃花という存在は大きく、現役引退後も一門の壁を超えて貴乃花親方の改革を応援しようという貴乃花シンパも少なくはなかった。
2018(平成30)年
3月18日 貴公俊暴行事件
3月23日 内閣府への告発状取り下げ
4月19日 一門会で名称変更を打診
6月20日 貴乃花一門消滅〜離脱
9月25日 日本相撲協会に引退届け提出
10月1日 貴乃花部屋解散
『 お詫びと気持ちを一門の皆様に伝えた。「私の名前のある一門は返上しますのでご検討下さい」と申し入れた。受け入れて頂いた』
3月18日の貴公俊暴行事件発生から1ヶ月、4月19日の一門会で貴乃花一門から自らの名称を取り下げることを打診。6月20日 貴乃花一門は消滅し阿武松グループとして再スタートを切り、貴乃花親方は無所属となり最終的に親方を引退するという一連の流れを見ると、あの暴行事件がすべての歯車を狂わせたようにも見えるが、実はそれよりももっと前、2月2日の理事選の結果 ( 理事選 阿武松8票当選 貴乃花2票落選、副理事選 錣山14票落選)を見れば分かるように、あの時点で貴乃花一門は既に3派に分裂しており、貴乃花親方は孤立状態にあったと思われる。
*貴乃花親方の2票は、自身の1票と子ども同士が結婚(現在は離婚)して親戚関係となった、高砂一門の陣幕親方(元前頭富士乃真)の投じた義理の1票とみられる。
『どうせやってるんでしょ?』
ある種のコンプレックスに駆り立てられ、本来の相撲道を取り戻すという大義の下、改革を旗印に集まった若い親方衆ではあったが、その実態は余りにも脆弱なものであり、理想と現実の狭間で苦悩することとなる。
何よりも各々が大勢の弟子を抱える親方であり、ただ闇雲に理想を追い求め弟子たちを路頭に迷わせられるような、無責任な立場では無かったということがこの分裂劇の肝だった言えよう。
現役時代の実績から一門外にも多くのシンパを持っていた貴乃花親方だが、今回の騒動から『横綱貴乃花のファンではあるが、協会理事としての貴乃花親方の言動には…』と、急激にその求心力に陰りを見せ、一門の代表として利益を確保出来るのか甚だ不安であるとの結論から、今回の理事選は見送るようにと貴乃花親方に要請し、一門としては阿武松親方を代表として選出することを決めたのだが、一門の票を阿武松親方に纏めることを了承した上で、貴乃花親方は理事選への出馬を表明する。
当確ラインが10票といわれる理事選で貴乃花一門の8名に加え、錣山親方など時津風一門を離脱してフリーで参戦していた3名を合わせれば11票の基礎票を有する一門は、最初から貴乃花親方一本に絞り代表に選出していれば、一門の解散という最悪の事態までには至らなかったのだが、内情はそれも許されないほどに抜き差しならない所まで追い詰められていたのだろう。
協会よりの圧力など様々な要因を語られるが、結局のところ一枚岩に見えていた第2次貴の乱・貴乃花一門も、結果的に内部から崩壊に向かって行ったのだ。
そしてこの貴乃花親方の引退とは、2世代に渡り協会と反目しながらも、ひとつの家族から3横綱、1大関を輩出し戦後大相撲人気の一翼を担って来た、花田家という角界のロイヤルファミリーが昭和から平成に掛けて土俵の上で繰り広げた、壮大な大河ドラマの終焉でもあった。





