翌日。
Aさん「SnRでピザ買って帰るから、みんなでピザ食べよー!」
(SnRはコストコみたいな会員制のスーパーマーケット)
グループチャットにメッセージ。
「いいね!ビーフのやつがいい!」
「ボーク食べられないからチーズね。」
「チーズなら2種類のチーズがのってるやつあるよね。」
みんなノリノリ。
ピザをみんなで食べるのはいいけど、
ご主人は私たちが【Aさんの不倫話を知っている】ことを知らない。
一体どんな感じになるんだろう・・・
まあみんなで食べるってことはご主人もOKだしたってことだし
楽しくワイワイやれるってことだよな。
って1人思ってたんだけれど。
ご主人はとてもシャイで地味な男性だった。ハンサムでもなくブサイクと言うほどでもなく。
Aさんは目鼻立ちがはっきりしていて、化粧をしていなくても華やかな顔。
正直、マダオ(不倫相手)のほうがかっこいいし、たぶんマダオのほうが
甘い言葉もたくさんかけてくれるだろうし、愛情表現もきっと激しいだろうな
と思ってしまった。
(私はマダオのことは知ってる。
おしゃべりで会うと絶対お世辞を言ってくるチャラい印象の男性だった。)
私もたくさんのフィリピン人の家に招かれてきたけど
このご主人のタイプは珍しいけど一定数いて
まあ簡単に言えば内弁慶タイプ。
オープンマインドでいつも誰かとワイワイやっていたいAさんの
ご主人とは思えないタイプだった。
部屋に入ると、ピザだけじゃなくケーキも用意してあった。
フィリピン定番のコーラやスプライトじゃなく、
ちょっとお高い外国の果汁100%ジュースも並んでいる。
「えー誰の誕生日なのー?」
「なんのお祝いよー」
おばちゃんたちが囃し立てる。
「誰も誕生日じゃないけど、1年ぶりに主人が帰ってきたから♪」
「ご主人のお披露目会って感じね」
「もうラブラブじゃないのあんたたち」
・・・ちょっとちょっと、白々しいんじゃないのと私は冷や汗が出た。
ご主人のお披露目会と言ったものの、
ピザを食べている間、ご主人が会話に参加することはなく
なんとなく微妙な空気。
そりゃそうだ、共通の話題がない。
基本今まで不倫話しかしてこなかったのに
不倫話を封印され、ご主人が全然参加してこないので
さすがのリーダーもお手上げ状態だった。
小1時間ほど微妙な時間を過ごし、じゃあそろそろと退散。
部屋を出た後リーダーに
「あんた今一人なんだから部屋に残りなさいよ」
「まだピザもケーキも残ってたし、食べちゃいなよ」
いやいやいやいや
「何を話せばいいのさ!あの雰囲気、超気まずいよ!」
みんな顔を見合わせ
「そうよねぇ・・・」
「なんだがまだぎこちないわよね。話できてないのかしらね」
「今日は2人で買い物に行ったらしいしけど、まだ時間はかかりそうね」
コソコソそんな話をして解散した。
昨夜、Aさんは
「私は・・・私は正直、自分でも自分がどうしたいのか分からない。
主人と再会するまでは一緒にやり直すんだって信じてたから
今日は一緒に寝るもんだと思ってた。ソファーで寝るなんて・・・
もう今は彼がなにを考えているのかも分からなくなっちゃったの。
自分から話しかけるなんて怖くてできないよ」
と涙を堪えながら吐き出した。
するとリーダーは再び
「ご主人が何を考えているかなんて関係ないのよ。
まずは自分がどうしたいかを考えなさい。全てはそれからでしょ!
相手に決めさせちゃだめよ。あなたの人生なのよ!」
とかなり強めに、もはやお説教。
そんなこと分かってるわよねぇ~
いいのよ、もうわーっと泣いちゃいなさい!
と言われ、Aさんはわんわん泣いて、泣くだけ泣いて
「ちょっとスッキリした。あんまり長くいると主人が気分を悪くするかもだから帰るね。」
と言って帰って行ったのだった。
こんな風にリーダーに詰められつつも
ご主人のお披露目会をしたということは
ひとまず2人でやり直すということなんだろうと
私たちは理解した。
ご主人は今年いっぱいは船員の仕事はないそうだから
この時間を使って2人は関係を再構築していくことになるんだろうな。
Aさんがどんな覚悟を決めたのかは分からないけど
昨日のリーダーの話は私にも鋭く刺さった。
私は不倫してるわけじゃないけど、
失業して再就職するのか帰国するのか
はたまた自営という新しい道を行くのか迷ってる。
そしてその決定いかんで家族との関係もかわってくるだろうと予想している。
だからなかなか決められないし、動き出せないままでいる。
でも。
そうなのだ。
常に自分がどうしたいのかをはっきり認識し
覚悟を決めなければ道は開かれない。
分かっちゃいるけどねぇ。
腹括って、覚悟決めて、なんてずいぶんしてこなかったから
覚悟を決めるって、怖いことだったなって
思わぬところで思い出したのだった。
おわり