先日、東京都世田谷区の下北沢にある「発酵デパートメント」を訪れた。
下北沢駅と世田谷駅のちょうど真ん中あたりにある「BONUS TRACK」というスペースにある
きっかけは、発酵デパートメントのオーナーをされている小倉ヒラクさんの著書『僕たちは伝統とどう生きるか』を読んだことでした。
本書ではタイトル通り、これからの時代に私たちは伝統とどう向き合うべきかが語られています。
個人的に、大学時代から「伝統とは?」は極めて大きな人生テーマであり、自分自身の人生の価値観を占めているテーマでもあるので、非常に興味深く拝読しました。
その中で印象に残ったのが、「大文字の伝統」と「小文字の伝統」という考え方です。
大文字の伝統は、文字による継承をベースとし、権威による固定化、秩序をもたらすもの。
一方、小文字の伝統は、つくることによる伝承をベースとし、地域に根ざした手工業や暮らしの中に息づく地域性、多様性、価値の変容性のある伝統を指す。
発酵食品は、まさに小文字の伝統の代表例だと理解しました。
味噌、醤油、漬物、日本酒、ヨーグルト、パン、納豆。
これらは全国どこでも同じもののように見えるが、実際には土地ごとの気候や風土、水、そして微生物の違いによって、それぞれ異なる個性を持っています。
だから発酵食品は工業製品とは少し違う。
設計図通りに作れば同じものができるわけではない。
微生物を必ず介在させるので、人間が完全にはコントロールできない。
本書では、別の文脈で人間は「クリエイター(創造主)」ではなく、「キーパー(お世話係)」である、という表現が紹介されていました。
微生物が働きやすい環境を整え、見守り、支える。
しかし最終的に何が生まれるかは、微生物との共同作業の結果として現れる、とのこと。
これは、会社における管理職の仕事もこれに近いなぁと思った。
管理職は、チームのメンバーが能力を発揮できる環境を整え、支援し、見守る役割の方が大きい。
人を動かすというより、人が動きやすい環境をつくってあげる。
それは発酵において微生物を支えるキーパーの役割と重なるように思えました。
発酵デパートメントでは、全国各地の発酵食品を扱うだけでなく、そうした背景にある文化や物語も紹介しています。
上記の記事の中で印象的だった言葉があります。
「酒造」の字からわかるように、酒は「作る」ではなく「造る」と表現します。お酒は授かりもので、つくり手がコントロールできるものではありません。
大洗や神様から授かる、畏怖の念が「造る」には込められているのだと思います。
私は製造会社で働いているので、この考え方は新鮮でした。確かにどんなものづくりも本当は完全にコントロールできるわけではないですので、このように解釈することも出来るかもです。
今回、発酵デパートメントでは台湾発酵文化をテーマにしたランチをいただきました。
豆腐乳や麹を活用した料理はどれも食べやすく、発酵食品というと少し構えてしまう人でも楽しめる内容でした。
発酵というと健康食品として語られることが多いです。
七つの菌をとろう、ということで「七福菌」と名付けられているようです
台湾茶もセットで飲めます
しかし今回感じたのは、発酵の本質は健康効果以上に「変化を受け入れる文化」にあるのではないかということです。
発酵食品は完成品ではない。
常に変化の途中にある。
昨日と今日で少し違う。
今年と来年で少し違う。
土地が変われば味も変わる。
だからこそ面白い。
均一であることではなく、変化し続けることに価値を見出している。
そう考えると、伝統とは「変わらないこと」ではなく、「変わり続けながら存在し続けること」なのかもしれない。
AIやデジタル技術によって、多くのものが効率化され、標準化されていく時代だからこそ、発酵や伝統が持つ価値はむしろ高まっていくように感じる。
発酵的な仕事観。
キーパーとして関わる姿勢。
変化を受け入れながら続いていく文化。
これからの時代を考える上で、発酵は単なる食文化ではなく、重要なヒントを与えてくれる存在なのかもしれないな、と改めて思いました。
ぜひ研究してみたくなりました。





































