4月の声を聞き、本格的に暖かくなってきました。もう上着は必要ありませんね。この日は近場の海外、韓国は釜山へ1泊2日で出掛けました。学生時代の友人が博多と釜山を結ぶ高速船、クィーン・ビートル号の優待券をくれました。その優待券を使って初めての海外一人旅です。ドキドキします。でもそれ以上にワクワクします。いやぁ持つべきものは友達ですね。
デッキから玄界灘を眺めると気分は遣唐使です。
釜山に到着し、入国審査も無事終了。釜山駅へ向かいました。今回の旅行は一人旅です。たった一人で海外の繁華街をウロウロする勇気はありません。下調べでは金剛公園が憩いの場であり歴史の宝庫だということでそこへ向かうことにします。しかし、表示の看板も路線図も構内放送もすべて韓国語、ちんぷんかんぷんです。びくびくしながらも何とか目的の駅、温泉場駅へ到着しました。
金剛公園への途中、不思議なオブジェを発見しました。どうやら開業時の温泉場駅を記念して建てられたオブジェのようです。
【釜山路面電車温泉場駅跡】
スマホで調べると1909年~1968年まで釜山には東萊(とんね)温泉への湯治客を運ぶ路面電車が走っていたようです。このオブジェの電車が当時走っていた路面電車を再現したものでしょう。シルクハットの怪しい紳士はどなたでしょうか?この紳士も当時の韓服を再現したもののようですね。この電車が走っていた時代、このような紳士が街を闊歩していたのかもしれません。
温泉場駅から金剛公園まで徒歩で20分程度とのことですが1時間近く歩きました。どうやら道を間違えたようです。一人旅好きを自認していますが実はひどい方向音痴なのです。なんとか金井山金剛寺というお寺にたどり着きました。
【金井山金剛寺】
釜山ではちょうど桜が満開です。山門の色彩と満開の桜に異国情緒を感じます。境内ではご住職と思われる方が草むしりをされていました。目が合ったので「アンニョンハセヨ」と挨拶をし、自分は日本人であることを告げると英語で話しかけてくれました。最後に韓国は好きか? と日本語で聞かれたので「はい」と答えると「OK、OK」と言って笑ってくれました。釜山までやって来た実感が湧いてきました。
少しばかり歩いたでしょうか、なんとか目的の金剛公園へたどり着きました。大通りに面した公園ですが木々に囲まれちょっとした森林浴にぴったりの素敵な公園で、大きな岩があちこちに転がっています。
【亀石】
亀石と書かれたこの巨石は文字通り亀そっくりです。眠そうな目がかわいいですね。日本で亀は長寿のシンボルですが韓国でも縁起の良い動物とされているのでしょう。
巨石だけでなくここにはいくつかの石碑も建てられています。亀に背負われたこの石碑は池錫永という人物を称えたもののようです。
【池錫永先生功徳碑】
調べてみると池錫永(チスクユン)は1879年(日本では明治12年)、朝鮮で初めて種痘法を患者に実施し、多くの人々を救った韓国近代医学の父と称された朝鮮時代の医師だそうです。
これは戦争の傷跡です。
当初予定していた金井山金井寺にやって来ました。ここには天下統一を成し遂げた豊臣秀吉による朝鮮出兵、文禄・慶長の役で命を落とした農民たちが埋葬されています。壬辰東萊義塚(インジントンネウィチョン)です。ここ韓国では文禄・慶長の役を壬辰・丁酉(じんしん・ていゆうのわらん)と言うようです。2度目の出兵中に秀吉はこの世を去り、秀吉による朝鮮出兵は失敗に終わります。
【壬辰東萊義塚】
夕食は釜山駅で。ゴマ油が利いた韓国風ノリ巻、はみ出すほどの具だくさんのキンパッを美味しく頂きました。
【キンパッ】
釜山の夜景は華やかです。ライトアップされた釜山港大橋もきれいですね。春の風に吹かれながら異国の夜景を眺めるのも柄にもなくロマンチックです。
2日目も早起きして金剛公園へ向かうことにします。というのも宿に置かれているガイドブックによると金剛公園からロープウェイで山に登ると金井山城(クムジョンサンソン)を見学することができるらしいからです。韓流時代劇の舞台になっているような建造物があるのでしょうか? これは出掛けるしかありませんね。
ロープウェイから釜山の街を一望できます。
高層ビルやタワーマンションが林立していますね。高い建物が少ない福岡に住んでいる者にとっては目を見張るばかりです。
ロープウェイの山頂駅から30分ほど歩くと金井山城の南門にたどり着くらしいのですが・・・、また方向音痴を発動してしまいました。異国の山の中で道に迷ったようです。登山コースに出てしまいました。
ここで迷子になってしまうと福岡へ帰れなくなります。もう恥も外聞もありません。覚えたてのハングルで、現地の登山者に道を尋ねまくります。「アンニョンハセヨ?」「ミアンハムニダ」「南門オディエヨ?」「カムサハムニダ?」「アンニョンヒカセヨ」、こんにちは、ごめんなさい、南門ってどこですか? ありがとうございます、さようなら。ひたすらこの言葉を繰り返します。聞き取りはまだできないので指差しで方向を教えてもらいます。
ガイドブックには韓国の人は一人で行動している旅人にはとても親切だと書かれていましたが、まさに韓国の人々の親切を身に染みて感じました。感謝です。
道に迷っていておたおたしていたのですが、金井山の登山、いい経験でしたよ。日本では百人一首にも詠まれているカササギを釜山では間近で見ることができます。歴史旅に似つかわしい雰囲気ある鳥です。
飲み物の準備をしていなかったので登山者用の給水所がうれしかったです。30分の散策のつもりが70分のプチ登山になってしまいました。ガチ登山にならなくてよかったです。ようやく金井山城、南門にたどり着きました。
【金井山城、南門】
苦労してたどり着いた南門、喜びもひとしおです。初めて目にする韓国の山城、感激です。
金井山城は新羅の時代に築城されたと考えられる韓国最大の山城です。新羅といえば白村江の戦いで唐とともに日本を撃退した朝鮮半島三国時代の国の一つですね。その後、この城は豊臣秀吉による2度の朝鮮出兵の後、日本の再侵入を防ぐために再築城されたそうです。福岡の水城、大野城のような役割を担っていたのでしょうか?
南門をくぐって城内に入ると外から見るよりも頑丈そうですね。この山城がいかに堅牢だったかを窺い知ることができます。
門に登るとその天井には鮮やかな彩色が施されています。これが韓国風なのでしょうか? 日本の無骨な山城と違って華やかです。難攻不落の山城に美しい装飾、この対照がいいですね。
山の中をさまよいましたが頑張った甲斐がありました。日本では見ることのない素晴らしい山城に出会うことができました。
金井山城は韓国版万里の長城と呼ばれており、城の周りは17キロ以上に及ぶ石垣で護られています。南門だけでなく東門、西門、北門も見どころ満載のようです、機会があれば全ての門を訪れてみたいものです。
楽しかった1泊2日の釜山旅行も終わりが近づいてきました。名残惜しいです。
帰りはロープウェイの駅まで地元の方が連れて行ってくれました。意外と言っては失礼ですが今回の旅で情に厚い人にたくさん出会いました。来てよかったです。クィーン・ビートルの優待券をプレゼントしてくれた親友にも感謝です。今回の旅をきっかけに、ただ今ハングル勉強中です。この秋にはハングル検定も受験しようと考えています。もう還暦が近いのですが新たに挑戦できるものを発見できた旅となりました。