12篇 遠い日の約束 その1

 

 その女の子は見るからに健康そうだった。日焼けした肌がピカピカに光っていて、都会育ちの僕には眩しく輝いて見えた。細くて青白い貧相な体つきの自分が恥ずかしくて、声を掛けたくても掛ける勇気を出せないまま、ただ黙って眺めているだけだった。何日目だっただろうか。


  ねえ、何してるの?みんなと遊ばないの?


突然声を掛けられて顔を上げると女の子が覗き込んでいた。吃驚して思わず仰け反ってしまった。


  だって誰も知らないから…。


あんなに動き回ってる中に入り込むなんて出来る訳が無い。


  じゃあ、あたしと遊ぼ。
  多田のおばちゃんがね、仲良くしてあげてね、って言ってた。


そう言うとその子は僕の隣に座った。


 色々な話をした。自分が小学校に入ったばかりで、お兄ちゃんとお姉ちゃんがいるとか、家は此の近くだとか、近所には男の子しかいないから、遊び相手は男の子だけとか、以前から友達だったかの様に話をしてくれた。人見知りだった筈なのに、その子には何故かとても心を惹かれた。


  あたしの名前ね、しほって言うの。しいちゃんって呼ばれてる。


真っ直ぐに顔を見つめて言われた。名前を教えてと言う様に。


  僕は、よしふみ、よし君って言われる。


子供だったから下の名前しか教え合わなかった。僕は其の事を後悔した。


 それからは毎日の様に二人で遊んだ。しいちゃんは他の友達と僕を遊ばせたがったが、僕は身体が弱いから男の子の遊びは無理、と言い訳をして拒んだ。友達はしいちゃんだけで良かったのだ。楽しい時間はあっという間に過ぎて母親が僕を迎えに来た。


  明日、帰るんだ…。


別れが辛くて俯きながら言った。何の言葉も無かったので僕は顔を上げた。しいちゃんは大きな目を見開いて涙を零していた。


  うん、そうだよね、帰るの当たり前だよね。


泣きじゃくりながら必死に声を出していた。


  来年も来るから、絶対だよ。約束する。指切りしよう。


僕が右手の小指を出すと、しいちゃんも自分の小指を絡ませて来た。


 子供の頃の小さな約束だった。なのに約束を果たす事は出来なかった。父の転勤で遠い南の県へ引っ越してしまったからだ。