12篇 遠い日の約束 その9
青い鳥での食事は落ち着かないまま終えた。これから友達と会うと言う重子と別れた僕は其のまま家に帰る事にした。何となく気が削がれてしまったのだ。重子と青い鳥へ行ったのは其の時の一度きりだ。僕を青い鳥に連れて行ったのは、何か意味が合ったのか、偶々あそこで出会ったから誘っただけなのか、気にしているのは僕だけかもしれないが、つい考え込んでしまう。
家庭教師の仕事を終えて外に出た途端、むっと熱い空気が体に纏わりついて来て、思わず眉を顰めてしまった。手をかざして空を見上げると雲一つない青空だった。暑い筈だ。せめて風でも吹いてくれたら凌げるのに、と言わずもがなの愚痴が出てしまう。どこか涼しい場所は無いか、と歩きながら辺りを見回して思い出した。そう言えば 喫茶青い鳥 は此処から近い。彼女はいるだろうか。思い出すだけで顔が熱くなるのを感じ、自意識過剰だと自分自身を嗜めた。
青い鳥の前に立った僕は、一呼吸おいてからドアを開けた。冷気が体に当たって流れ出た。
いらっしゃいませ。
店の中を見るより先に声が聞こえた。彼女の姿が見えた。笑顔が優しげだった。それだけで心が和らいだ。僕は二人掛けのテーブル席を選んだ。一人だと言う事も有るが、その席がカウンター側にいる彼女を、真面に見る事が出来るからだ。彼女がメニュー表と御冷やを持って来た。
アイスコーヒーで。
僕はメニュー表を受け取らずに注文をした。
かしこまりました。
彼女は初めて目を見て応えてくれた。丁寧にお辞儀をしてカウンターへ戻って行った。ふっと辺りを見回すと意外と若い客が多かった。接客は彼女ともう一人の女性とで賄っている様だった。忙しそうに見えた。それでも対応は丁寧で親切だった。経営者の方針が確りしているのだろう。彼女への好感が膨らんだ。