12篇 遠い日の約束 その10
ゆっくりとアイスコーヒーを飲んで伝票を持ち会計の方へ歩いた。彼女は接客中でレジには店のオーナーらしき男性が立っていた。会計が彼女では無かった事を残念に思いながら、青い鳥を出ると外は黄昏時だった。さり気なく窓際へ目をやると、僕が座っていたテーブルの後片付けをしている彼女の姿が見えた。ここに来たら彼女に会えると思うと、それだけで心が浮足立って来る。
家庭教師のアルバイトがある日は青い鳥に立ち寄るようになった。彼女は何時もいる訳では無かった。不在の理由を尋ねる事など出来る訳も無く、休憩時間だったり、休日だったりするのだろう、と想像するだけだった。案外と会えないものだ。
その日は姉に頼まれて買い物に付き合わされていた。歩き疲れたので休みたい、と我が儘を言う姉に少し考えた。ここから青い鳥が見えたのだ。青い鳥は姉も利用した事があると言われ吃驚した。最近は仕事で外回りもしている様だから、知っていても不思議は無いかもしれない。今日は彼女がいるだろうか、とドキドキしながらドアを開けた。
いらっしゃいませ。
優しい声が聞こえた。其方を見ると控えめな笑顔があった。居た。久しぶりに彼女の姿を見て心が和んだ。
彼女からメニュー表を受け取った姉は、少し眺めてからフルーツパフェを頼んだ。僕は相変わらずアイスコーヒーだ。やっぱり、と思ったのかもしれない。僕が注文をすると彼女の口元が少し緩んだ気がした。
青い鳥でゆっくり姉弟の時間を過ごして家に帰ると、両親が身なりを整えて待っていた。今日は両親の結婚記念日なので外食をする予定なのだ。姉の買い物に付き合ったのも両親へのプレゼントを買うためだった。僕の運転する車で予約しているレストランへ向かった。父が仕事で接待に使っているレストランなので可なり高級だった。
其のレストランから出て来た男女二人組がいた。すれ違う時、ふっと顔を見て驚いた。女性は青い鳥の彼女だったのだ。心臓が高鳴った。彼女は男性の陰に隠れる様にして歩いていたので、僕に気付いたかどうかは判らない。