12篇 遠い日の約束 その19
飛行機の出発時間が早かったので見送りは要らないと遠慮されたが、両親と僕は空港へ出向いた。志穂とその両親も矢張り来ていた。姉夫婦は申し訳ないと言いながら嬉しそうに旅立って行った。志穂の両親は此のまま川内町へ帰る様だった。志穂が一人でバスターミナルへ向かったので後を追い掛けた。姉から志穂へ渡して欲しいと頼まれたものがあるのだ。
水上さん。
声を掛けると振り返って僕を見た志穂が吃驚して固まっていた。
ちょっと話があるんだ。付き合ってくれないか。
近くにある喫茶店を指さして誘った。返事も聞かずに中に入ったが、志穂は素直に付いて来てくれたのでホッとした。朝早いせいか店は比較的空いていた。目立たない様に奥のテーブルに席を取った。直ぐにウエイトレスが注文を取りに来たので、僕はコーヒーを志穂は紅茶を頼んだ。
姉さんから頼まれたんだ。これを渡してくれって。
僕はポケットから白い封筒を出して志穂の目の前に置いた。
お義姉さんから?
志穂は訝し気にしながらも封筒を手に取って中身を出した。出て来たのはビーズで作った淡いピンクの透明感があるブレスレットだ。
それ、姉さんの手作りなんだ。
趣味で作っているものだから遠慮しないで受け取って欲しいって。
以前から手作りしている事は知っていたが、まさか志穂の為だとは思いもしなかった。
綺麗…。こんな素敵なものを私に?
感激して目が潤んでいた。泣きそうになっているのを必死に堪えているのがいじらしくて、自分でも意外な行動に出てしまった。
付けてあげるよ。
隣の席へ移り、志穂の手からブレスレットを受け取ると、左の手首に巻いた。指先が触れたせいか志穂の顔が赤らんでいた。