12篇 遠い日の約束 その15
面接を受けた会社から採用通知が届いた。自信はあったが、万が一と言う事も考えていたので、心底ホッとした。あとは卒業を待つだけだ。両親に報告すると嬉しそうだった。娘の結婚と息子の就職が決まって、漸く親としての肩の荷が下りた気分だろう。これで少しは夫婦二人の生活に目を向けてくれると良いな、と思う。
小野田も就職が決まったので、大学の仲間でキャンプに行かないか、と誘いを受けた。大学を卒業すれば皆バラバラになってしまうので、思い出作りに参加しないか、と言う事だった。確かに地元へ帰る者もいれば、海外へ行ってしまう者もいる、また会えるなんて確約は無いのだ。特に親しかった五人で近場のキャンプ場へ出掛けた。街から離れた海沿いのキャンプ場は夜になると星空が広がって、何時まで眺めていても飽きる事が無かった。川内町の星空も此れ位美しかったな、と思い出した。
姉が会社の夏季休暇を利用して彼氏の実家へ行った。何時も冷静な姉も結婚の挨拶となると緊張する様で、何度も旅行鞄の中身の確認を繰り返して、母に呆れられていた。姉も案外と可愛いところがあるものだ。ついついニヤニヤしてしまい、姉に睨まれた。
姉が彼氏の実家から帰って来たので、顔合わせの話がとんとん拍子に進んだ。場所は迎える此方に一任された。高級ではあるが堅苦しくならない程度のレストランを選んだ。他人の目を気にせずに済む様に、個室にしたのは良かったと思う。
それぞれの家族がテーブルについて自己紹介をし合った。何方も両親と子供たちの四人家族で、絶妙な組み合わせだと思った。僕の向いに座った女性は幾度か顔を合わせた覚えがあった。重子や水上麻美と一緒に居た子だ。
妹の水上志穂です。よろしくお願いします。
志穂と言う名前を聞いて驚いた。まさか…しいちゃん?思わずジッと見つめてしまった。胸がドキドキと高鳴った。