12篇 遠い日の約束 その14

 

 四月、僕は大学四年生になった。卒業に必要な単位は取得済みなので、後は就職先を決めるだけだった。小野田は建築会社に決まりそうだと言っていた。友人たちは親の勧める道を行く者もいれば、自分で決めた道を突き進む者もいて、それは人それぞれの生き方だから、失敗して後悔しても遣り直せばいいだけだと思う。焦りが無いと言えば噓になるが、何処でもいいから決めてしまおう、と言う気にもなれない。父がじっくり決めろ、と言ってくれたから肩の力が抜けたのだ。 


 夏休みに姉が彼氏の実家へ挨拶に行く事になった。観光なども兼ねて三泊ほどしてくるらしい。その実家が川内町であることを初めて知った。


  川内町って、僕が小学生の頃、静養してた川内町?


これほど衝撃を受けたのは初めてだった。


  そうなの。よし君を送って行った時に会ってたの。


姉もつい最近になって知ったのだと言う。初めて彼の実家の話になった時に川内町と知り、まさか…と思いながら口にしてみたら、まさかが本当だったのだ。田舎の町で出会った、中学生と小学生が、都会で再会するなんて奇跡でしかない。ましてや結婚するなんて…。その話を聞きながら、僕は しいちゃん の事を思い出していた。もしかしたらぼくも しいちゃん に会えるかもしれない。淡い期待を抱きながら一方で否定もしている。姉の奇跡が僕にも起きるなんて話が上手すぎる。


 日射しが大分強くなって来た。初夏と言うより本格的な夏がやって来たみたいだ。今日は面接だった。筆記試験は合格しているが、面接で更に振るいに掛けられるらしい。こればかりは面接官の心証次第なので合否は待つしかない。喉が渇いたので目についた喫茶店に入ってみた。空いている席を探していると、角のテーブルに姉の姿が見えた。書類らしきものを眺めているので、仕事帰りなのだと判った。黙って側に立ってみた。姉は人影が差した事に気付いて顔を上げた。吃驚して目を見開いていた。


  偶然だね。仕事帰り?


笑って声を掛けると書類を片隅に置いて頷いた。


  そう。まさかこんな所で会うなんてね。


営業担当では無い筈なのに、取引先から指定されて出掛ける事がある、とは聞いていた。かなり信頼されているのだろう。自分の事の様に誇らしい。