12篇 遠い日の約束 その11

 

 夏が過ぎると、彼女の姿は青い鳥から居なくなった。夏休みの間だけのアルバイトだったのだろう。僕の家庭教師のアルバイトも終わってしまったので、青い鳥からは自然と足が遠くなった。両親の結婚記念日にレストランですれ違った彼女を思うと、隣に居た男性の姿も甦って来て、胸がざわついてしまう。もう彼女には会えないのだろうか。


 時折り、夏の暑さがぶり返されながら、季節は何時も通りに流れて行く。夕方になれば涼しい風も吹く様になって来た。重子が通っている南城大学近辺に昔から在る喫茶店で母と伯母と待ち合わせをした。待ち合わせと言うよりも呼び出されたと言う方が合っている。伯母が園芸店で購入した花木が重いので、車で運んで欲しいと言う事だった。配達を頼んだら明日になると言われたので僕を呼び出したらしい。普段から可愛がって貰っているし、時間に余裕があったので引き受けた。


 青い鳥に比べると古いだけに重厚な趣がある喫茶店だった。少し重めのドアを押して中へ入った。二人が座っている席は直ぐ判った。真っ直ぐ其方へ向かうと母が振り返った。


  母さん、待った?


隣に立って声を掛けると伯母が振り返り、申し訳なさそうに微笑みながら頭を下げて来た。年齢に合わない愛らしさが憎めないところだ。


  ごめんね、急に呼び出して、道路混んで無かった?


母は困ったような顔で伯母の方をチラッと見てから謝って来た。


  大丈夫だったよ、まだ明るいから。


笑って言うと母はホッとしたように笑顔になった。母の隣に腰を下ろす為に身体を斜めにした僕の目に思いがけない人が映った。青い鳥の彼女だ。ドキンと胸が弾けた。どうしてこんな所に彼女がいるのだろう。一緒にいた女性は水上麻美だ。もしかしたら彼女も南城大学の学生なのだろうか。