12篇 遠い日の約束 その8

 

 腐れ縁と言うのだろうか。重子とは何の約束もしていなくても出会ってしまう事が多い。出会っても何時もなら其のまま別れてしまうのに、その日は何故か食事に誘われた。友人に教えて貰ったと言う喫茶店のハンバーグが美味しいからと強引だった。丁度お腹も空いていたので誘いに乗った。歩いて五分ぐらいで着いた。透明なガラスのドアに 喫茶青い鳥 と店名が書かれていた。馴染み客になっているのか、躊躇いも無く重子が中へ入って行ったので、僕も続いた。

 

  いらっしゃいませ。


涼やかな声が聞こえた。ちらりと其方を見て驚いた。デパートで会った、水上麻美と一緒にいた女性だった。胸が高鳴った。此処で働いていたのか、と意外だったが、大学生の筈だからアルバイトなのだろう、と考えた。重子が窓際のテーブル席に着いたので、僕はその向かい側に座った。その女性が直ぐにメニュー表と御冷やを持って来た。


  この間のハンバーグが美味しかったから又来ちゃった。


重子がやけにニコニコしながら親し気に女性を見つめて言う。それでいいよね、とでも言う様に僕を見つめて来るので無言で頷いた。


  じゃハンバーグランチ二つで。
  飲み物はメロンソーダーとアイスコーヒーを。


セットの飲み物は僕に確認もせずに勝手に注文していたが、好みを把握しているから黙って任せて置いた。


  ね、似合うでしょ。この制服、きりっとしていて素適よね。


注文を再確認して立ち去ろうとした女性を引き止めるかの様に、重子が僕と女性を見遣りながら言った。何てことを言うのだろう。僕は頷くのが精一杯だった。


  ありがとうございます。


女性はほんのりと頬を染めながら会釈をして立ち去った。僕は思わず重子を睨んでしまったが、重子は笑っているだけだった。