12篇 遠い日の約束 その3

 

 僕は東都大学生になった。小野田英雄も一緒だ。何だかんだ言いながら小学校以来の付き合いになる。身体の弱かった僕を引っ張って来てくれた友人だ。あの頃はこんなに長い付き合いになるとは思ってもいなかった。小野田は腐れ縁だと笑って言うが、当時の担任に面倒を見て呉れる様にと頼まれたらしいのは何となく判っていた。余計なお世話だと反発もしたが、さり気なく手を貸してくれる存在は有難かった。内気で人見知りだった僕が開放的になれたのは小野田のおかげではある。ただ小野田を受け入れる事が出来たのは、川内町の川べりで しいちゃん が声を掛けてくれて、遊ぶことの楽しさを教えてくれたからだ。あの夏の経験がなければ一歩踏み出す事など出来なかったと思う。


 僕の母は三姉妹だ。母が真ん中で姉と妹との歳が二つずつ離れている。それぞれに相手を見つけて結婚した筈なのに、どういう訳か住む場所が近すぎて、何かと言えば集まっていたので、従兄妹と言うよりも兄弟姉妹の様な感覚で育った。姉の子供は男二人、妹の子供は女二人、母だけが男女一人ずつ生んでいたので、姉からも妹からも羨ましがられたと苦笑していた。


 従兄弟の方は長男が社会人になっていて、次男は大学四年生だ。従姉妹は長女が短大を出てデパートに事務員として勤めている。次女は高校生だ。流石に皆が大人になって来ると、余程でない限り勢ぞろいする事が無くなって来た。高校生の重子だけが相変わらず出入りしているので、年の近い僕が何かと言えば駆り出されている。映画を観たい、買い物に行きたい、遊園地に連れて行って、と振り回されるのは子供の頃からなので慣れてしまった。何の事は無い。体のいいボデイガード代わりに使われているのだ。僕が重子を邪険にできない理由は年齢が しいちゃん と同じだからかもしれない。見た目も性格も全然似てはいないが、重子と接する度に川べりでの経験を思い出してしまうのだ。