11篇 指切りをした その23


 田舎町なので観光するところも無く、都会育ちの彼女には退屈だろうと思ったのだけれど、自然が素敵だと言って喜んでくれた。


  実はね、小学生の頃だけど、一度ここへ来た事があるのよ。
  弟が身体弱くて、静養のために連れて来たの。
  私は子守代わりに一緒に来たのよ。


思いがけない告白に私は吃驚して声も出なかった。


  巧さんとお付き合いを始めてから知ったの。
  お互い子供の頃の話をしてる時に思い出して…。


その思い出が結婚にまで繋がったと照れたように笑って言う。二人の間にそんな深い縁があったなんて、一つの物語を聞かされている様だった。感動して目頭が熱くなった。姉夫婦が赤ちゃん連れで来てくれたが、顔合わせ程度で直ぐ帰って行った。無理をして来てくれたのだろうと思う。僅かな時間であっても家族全員が顔を合わせる事が出来たのは、家族の想いが兄の結婚で一つに繋がった結果なのだ。幸せをしみじみ感じる。


 兄たちは三泊して帰って行った。結婚式の打ち合わせ、両家の顔合わせ、新居探し、やらなければならない事が沢山ある。大変だろうな、と思うけれど、当人たちには一番楽しい時期なのかもしれない、とも思う。


 麻美と打ち合わせて大学へ戻ったのは八月の末になってからだった。まだ夏の厳しい暑さが残っているが、その苦手だった暑さが嫌いでは無くなって来たのは馴染んで来たのかもしれない。


 立木千晶から弟を紹介したい、と言われていたけれど、なかなか機会に恵まれず、初めて会ったのは家族の顔合わせの時だった。顔だけは知っていたので初対面という感じは無かった。それぞれの家族を紹介し合って食事になると、真向かいに座っている立木佳史の硬い表場が、少し和らいだ気がした。