10篇 勿忘草を君に その18
ああ、懐かしいな、ちっとも変わってない。家の前に立った時、思わず口から言葉が零れた。七年ぶりの我が家だ。表札が 加納 のままで感慨深いものがある。父と中学三年生になるまで住んでいた家は、あの頃と変わらない趣で佇んでいた。大事に大切に手入れして住んでいるのが良く判る。雪子に促されて玄関に入った。
ただいま。
雪子が少し大きな声で言った。ぱたぱたとスリッパの音がして義母が姿を現した。僕を見ると一瞬息を呑んだ。
いらっしゃい。まあ、大きくなって。
泣きそうな顔の義母を見ると感無量になって胸が熱くなった。
お邪魔します。お久しぶりです。
七年経っても義母は少しも年を取っていない。学校から帰ると優しい笑顔で迎えてくれた日々が甦る。
さあ、上がって頂戴な。
促されるままに奥の部屋に入ると、テーブルの上には沢山の手料理が、並べられていた。僕が来ないなんて考えていなかったのだろう。
義母の手料理を食べながら、父との思い出話をして、泣いたり笑ったり、しんみりしながら、時間が経つのも忘れるほど語り合った。気付いた時には夜も遅くなっていて義母が泊って行くように勧めてくれた。
淳史君のお部屋は其のままにしてあるの。
お布団も敷いてあるから。
義母は父のパジャマを出してくれた。大事にとって置いてくれたのだ。思いの深さを垣間見て涙が出そうになった。