10篇 勿忘草を君に その16

 

 待ち合わせの喫茶店に約束の時間より早目に着いた。今日だけは雪子より遅れる訳には行かなかった。横に紙袋を置きながら、そわそわして待った。ウエイターが注文を取りに来たが、連れが来たら一緒に頼むから、と待って貰った。雪子の事だから約束の時間より、早く来るだろうと思っていたら、やはり十分ほど前に入って来た。僕が手を上げると嬉しそうに笑った。

 

  ごめんなさい、お待たせして。

 

僕より早く来る心算だったのだろう。申し訳なさそうに頭を下げる。

 

  いや、僕が時間より早く来ただけだから、雪は悪くないよ。

 

雪子に悲しそうな顔をさせてしまったので慌てて言い訳をした。

 

 ウエイターが注文を取りに来た。僕はコーヒーを、雪子はコーヒーが苦手らしくミルクを頼んだ。客が少なかった様で、それほど待たされずに運ばれて来た。雪子が温かいミルクを一口飲んで、ほうっと吐息を漏らした。ドキッとした。ああ、雪子はもう女の子を卒業しているんだ。ここにいるのは大人の雪子なんだ。頬が熱くなった。それを知られたくなくて、僕は横に置いてあった紙袋から細長い包みを取り出し、テーブルの上に置いた。雪子は怪訝そうに小首を傾げて僕を見た。

 

  今日、雪の誕生日だよね。おめでとう。これ、プレゼント。

 

瞬間、大きく目を見開いて、僕とプレゼントを見比べていた。

 

  え…、え?プレゼント?誕生日って覚えてくれてたの。

 

思いもしないプレゼントだったと思う。たちまち目が潤んで来た。

 

  開けて見て、気に入ってくれると良いけど…。

 

喜んでくれる自信はあったが、一抹の不安もありドキドキした。

 

 包装紙を解く雪子の指先が少し震えていた。銀色のケースが現れた。その蓋を開けると見えたのは細めのシルバーチェーン、トップにガラスで作られた桜の花が付いている。桜は雪子が好きな花だ。これを見つけた時、どうしても雪子に贈りたくて、アルバイトも必死に頑張った。

 

  綺麗、ありがとう、淳史さん、とっても素敵。

 

雪子の頬をぼろぼろと大粒の涙が零れた。