10篇 勿忘草を君に その6

 

 野田は渡井朱美を美少女だとは言っていたが、好みでは無かったらしく、周りが騒ぐほど関心は持っていない様だった。学年が違うせいか僕が渡井朱美と顔を合わせる事は無かった。僕が渡井朱美を認識したのは学校祭でだ。この時期は三日間だけ各教室が解放され出入りが自由になる。野田に誘われて入った教室は手作りの小物を販売していた。そこで売り子を担当していたのが渡井朱美だった。客寄せに使われたのだろうか。人垣が出来ていた。目鼻立ちのハッキリした女の子だった。確かに美少女なのだろう。だけど可愛いだけなら雪子の方がずっと可愛い、と思ってしまった。

 

  雪…、どうしてる?

 

今は中学三年生だ。大人びて来ているだろうか。会いたいと思う。会いに行くには少し距離が離れてしまった事が悔しい。

 

 学校祭が終わって校内も静かさを取り戻した。この頃から二年生は進学組と就職組に岐路が別れる。同じクラスに居ても進路が別れると話す事も違ってしまうのは仕方が無いのだろうか。割り切れない思いが残る。僕と野田は同じ大学を目指しているので行動がほぼ一緒だ。だからなのか僕が気付かない事を時々指摘されるのだ。

 

  なあ、最近、渡井と会う事が多くないか?

 

教室を移動する間に言われた。

 

  そうかな?気のせいじゃないか。

 

何処かではすれ違っているかもしれないが、顔を合わせた記憶は全く無い。

 

  いやいや、会ってるって、校門とか廊下とか。

  教室が一階なのに二階で会うなんて滅多にない事だろ?

  なのに、ちょこちょこ居るんだよな。

 

野田にそう言われても記憶に残っていないのだ。苦笑するしか無い。