9篇 朝の月 夕の月 その9

 

 日ごと寒さが増していく。街路樹もすっかり枯れ落ちて、12月と言う月は、何故こんなにも気忙しく過ぎて行くのだろう。

 

 母も私も外側に目を向ける方では無く、人付き合いも少ないせいか、世の中の流れから少し取り残されているのかもしれない。それを寂しく思わないけれど、ふと考える時がある。母はこのままでいいのだろうか。私が母の元を旅立つ日が来たら、母は一人ぼっちになってしまうのだ。このまま一人で年老いて行く母の姿を想像して、背中が冷たくなる感覚を覚えた。大丈夫、私が付いている…。落ち込む気持ちを奮い立たせる。

 

 年の瀬の街は行き交う人も忙しそうで、商店街は熱気に溢れていた。美登利に頼まれて買い物に付き合っているけれど、この時期のこの雰囲気は苦手だ。幾度も人にぶつかりそうになり、それを避けるのに気疲れしてしまう。

 

 主に若者向けの商品を取り扱っている店は、美登利があらかじめ目星をつけていた所だ。中に入ると其れほど混んではいなくてホッとした。

 

  ねえ、これとこれ、どっちの色が一茂さんに似合うと思う?

 

カーディガンを物色していた美登利が指さしたのは、濃紺と白の霜降り、黒に近い青から淡い青に変わって行く段染め模様だった。私は少し考えてから段染めの方を選んだ。美登利は満足そうに頷いて会計に向った。本当は手編みにしたかったのに、既製品にしたのは、プレゼントが手作りなのは重すぎる、と忠告されたかららしい。その辺りの機微は私には判らなくて、そうなの?と思っただけだったが、美登利には響いたようだった。

 

 店をでると美登利は紙袋を大事そうに胸に抱えて歩き出した。足取りが軽い。嬉しそうな美登利をみていると此方まで幸せな気持ちになる。そんな美登利が不意に立ち止まって声を上げた。

 

  あれ、橘さん…?

 

向こう側から歩いてくる二人連れの男性を見て吃驚していた。

 

  橘さんって?

 

どこかで聞いた事が有る名前だった。

 

  一茂さんの仲良しグループの人よ。会った事なかった?

 

思い出した。一通り仲間を紹介された時、不在のメンバーがいて名前だけ教えられたのだった。