8篇 僕の恋の話 その20
突然に父から、近いうちに帰って来れないか、と連絡が入った。旅館の事で話があると言われた。もしかして廃業を中止にするのだろうか。一度決めた事を簡単に取り消す父では無いと思ったが、その他に心当たりは無かった。講義が無い日に家に帰る事にした。
有名企業の就職説明会が迫っていたので、一泊二日の弾丸帰省だった。夏休みに帰省しなかったからか、祖母も義母も喜色満面で迎えてくれた。特に義母は僕が帰省しないのは自分のせいかも、と気にしていたらしく、僕を見た時は心底ほっとして嬉しそうだった。夕食は久しぶりに家族4人で顔を合わせて楽しむ事が出来た。その後で父が男同士で飲みに行こうと誘って来た。二人だけで話がしたいのだろう。入ったのは近場の居酒屋だったが、意外な事に個室を取ってあった。二人とも飲めない口では無いが、好きでも無いので、ビールと酒肴を注文した。
二人で飲むのは初めてだな。
ビールを半分ほど飲んでから父が口を開いた。
そうだね。
枝豆をつまんで僕は頷いた。忙しいときは夕食だって家族揃うのが珍しかった。
加奈ちゃんとはどうなってるんだ。
突然、加奈子の事を言い出されて、思考が固まってしまった。
どうって、どうもなってないけれど…。
聞かれた意味が理解できず、じっと父を見つめた。
この間、加奈ちゃんが俺を訪ねて来た。
うちの旅館の女将になりたいと言われた。
子供の頃からの夢だったそうだ。
陽一と二人で旅館の後を継ぐことが…。
僕から目を逸らさず、父は苦笑気味に言った。