8篇 僕の恋の話 その17

 

 薫は倉地美佐江と僕を沙織に紹介してくれた。沙織は僕を見つめて少し表情を動かした。沙織の祖父の葬儀で顔を合わせているので、認識はしていてくれたのかもしれないが、お互い其の事には触れなかった。ただ此れで沙織に声を掛ける切っ掛けが出来た事が嬉しかった。大学内で沙織の姿を時折り見掛ける様になって来た。すれ違う時は笑顔で挨拶できる様にもなった。今度は声を掛けてみようと思う。

 

 大きくなったら結婚してね。幼稚園の頃から幾度となく聞かされて来た加奈子の願いだった。夢見がちな子供の戯れだとばかり思っていた。同じ大学に入って来た時も両親の勧めに従ったものだと軽く考えていた。違和感を覚えたのは僕が沙織を意識し始めた頃だ。僕への纏わりつきも従妹の範疇を超えていると感じる様になり、そんな加奈子を煩わしく思い始めている自分に驚いた。妹の様に思っていても、やはり妹では無かったのだ。妹だったら纏わりつかれても、これほど嫌悪感を持つ事は無かっただろう。

 

 僕としては加奈子との間に一線を引いた心算でいても、加奈子には通じていない様だった。遠ざけようとすればするほど執着して来る。物心つく前から、僕と加奈子は一緒に育ったから、妹として可愛かったのは事実だ。加奈子だって兄の様に慕ってくれていた筈なのに、何時からそうでは無くなったのだろう。

 

 傑から言われた事がある。加奈子の事を本当に妹としか見ていないのなら、もっと毅然とした態度を取った方がいい。甘やかしてばかりいると増長して来るぞ。本当に好きな子が出来た時、何をされるか判らない。その時は真剣に取り合わなかった。渦中にいる僕には判らなかったが、傍目には加奈子の僕への接し方が、異常に見えていたのだ。