7篇 菜の花が咲く頃 その19

 

 私は薫に陽一の父と私の母が再婚していることを話した。実父との繋がりを断ちたくないので養子縁組はしていないし、顔合わせもしていない事、何故か加奈子が私たちが交際していると誤解している事も、包み隠さず打ち明けた。

 

  けどね、二人は周囲の人には付き合ってると思われてるよ。

  だから芦田さんが嫉妬してるって…。

 

声を潜めて薫は言った。加奈子に嫉妬されるほど親しく見えたのだろうか。確かに声を掛けられれば笑顔で応対したし、誘われて喫茶店に行った事もあるけれど、友人としての枠は超えていない心算だった。何より私の目には、陽一と加奈子が付き合っている様に見えたから、一歩引いた態度を崩さなかったのに。私達、結婚するんだから、と叫んだ加奈子の声が耳から離れない。それなら何故、陽一は私にあんな親し気な態度を取ったのだろう。加奈子が誤解するのも無理は無い。結婚まで決まっているのなら、もっと節度ある付き合い方が有ると思う。陽一がそんな不誠実な人間には見えないだけに残念だった。私が余程ショックを受けている様に見えたのだろう。薫は私から離れようとしなかったけれど、青ざめた顔の陽一が現れて、二人で話したいと請われると、その場から去って行った。人目を避ける為か陽一は大学を出た。

 

  ごめん、友達から聞いた。加奈子が君に酷い事を言ったって。

 

あれだけ大声で言ったのだから、大勢の学生たちが聞いていたと思う。今にして思えば、皆に聞かせたかったのかも知れない。

 

  婚約者だったのね。大学卒業したら結婚するって…。

 

少し申し訳ない気持ちになって俯いてしまった。

 

  違う。僕にそんな心算は無い。加奈子が勝手に言ってるだけなんだ。

 

陽一は立ち止まって真正面から私を見つめて言った。