7篇 菜の花が咲く頃 その18

 

 その日から陽一は大学で会うと、積極的に声を掛けて来るようになった。私も陽一だけは普通に受け容れられる様になっていた。他の男性には今でも苦手意識が有るのに、陽一にだけは自然な笑顔を見せる事が出来た。そんな私達は周りからは付き合っている様に見えていたらしい。薫にも付き合ってるの?と聞かれたので驚いた。芦田加奈子の存在が有ったので、思わず首を振って強く否定してしまった。陽一と親しげにしている加奈子の姿を良く見掛けていたからだ。その纏わり付き方が恋人同士の様に見えて、私は一線を引くようになった。陽一が私に声を掛けて来るのは、母の事が有るからだと思う。それなら私は陽一と関わりなく過ごして行きたい。母の事は放っておいて欲しい。頑なに思われるかもしれないけれど、母娘であっても相容れない事が有る。

 

 自分の気持ちに折り合いを付けようとしている頃、芦田加奈子が私の目の前に現れた。初めて間近で芦田加奈子と対面して、その美しさに驚いた。陽一と並んだら、これ以上無い位お似合いだと、素直に思う。

 

  陽ちゃんと貴女、どんな関係なの?

 

名前も名乗らず、いきなりの詰問に私は面食らった。

 

  関係って、同じ大学の先輩後輩と言うだけで、何も…。

 

私と陽一の繋がりは其々の親が結婚していると言うだけだ。家族としても親戚としての付き合いも一切ない他人なのに、陽一との関わり合いを芦田加奈子に責められる謂れは無い。小さな怒りが表情に現れていたかも知れない。

 

  陽ちゃんに近付かないで。私達、大学を卒業したら結婚するんだから。

 

目を吊り上げるようにして加奈子が叫んだ。衝撃の告白だった。

 

  余計な心配しないで。私と陽一さんは付き合ってもいないから。

 

私は声を抑えて言った。人だかりがして来た。戸惑っていると、何時の間にか薫が側に寄って来て、二人の間に割り込んでいた。行こう、と言いながら私の手を引っ張って歩き出した。