7篇 菜の花が咲く頃 その14
泣いたり笑ったり、久しぶりに祖母と語り合う事が出来て、時間が経つのも忘れて甘えてしまった。祖母と会うと童心に帰ってしまって、仕種も子供っぽくなってしまうのが、ちょっと恥ずかしい。そんな事を考えているとドアがノックされた。祖母が、はい、と答えた。ドアがゆっくりと開いた。
こんにちは、お婆ちゃん。あ、お客さん?
入って来たのは若い男性だった。顔を見て驚いた。松本陽一だった。思いがけない人と思いがけない場所での再会に声も出なかった。
お婆ちゃん、これ、裕子さんから頼まれたものだよ。
松本陽一は其れほど驚いた様子も無く、祖母に紙袋を渡していた。陽一は母の継子になるのだから、祖母と付き合いがあっても当然だし、お婆ちゃんと呼んでも可笑しくない。けど母の事はお母さんではなく、裕子さん、と呼んでいた。母を受け入れている訳では無いのか。
沙織、陽ちゃんとは会った事がある?
裕子の旦那さんの息子さんよ。
祖母は私たちが同じ大学に通っている事は知らないのだろう。
うん、お爺ちゃんのお葬式の時にね、少しだけ…。
私が母の再婚相手との顔合わせを拒んだので、気まずさも有り小さく頷いた。
沙織ちゃんの事は裕子さんから聞いてるよ。
これから仲良くしてくれたら嬉しいな。
陽一は何の拘りも無さそうに笑顔を向けて言った。はい、とは言えなかった。母の再婚を認めなかった訳では無いが、養子縁組の提案を拒否したのに、仲良くしようと言われて素直に受け入れる事は出来なかった。