2篇 初恋は流れる その4

 

 初恋だったのだ、と今なら思える。あの頃は、好き、と思う事が恥ずかしくて、自分の気持ちから目を背けていた。素直になれなかったのは自分に自信が無かったからだ。私の、好き、は相手にとって迷惑になる、と思い込んでいた。だから誰にも知られたく無かった。

 遠く離れて、二度と会う事の無い人だと思ったから、この想いは清らかなままで昇華した心算だった。よく似た人を見掛けただけで、こんなにときめきを思い出してしまうなんて、ちっとも忘れられていなかったのだ。

 どうかしたの?顔が赤いよ、と明子に言われてしまい、慌ててかぶりを振ったけれど、居る筈のない人が居たような気がして、とポロリと零してしまった。不審げな顔をされたけど、追及はされなくてホッとした。もう秘めて置くには苦しくて、何時か打ち明けて自分を解放したいと思う。

 秋が過ぎて冬になり、雪が辺り一面を真白に変化させる頃、薫から手紙が届いた。教師を目指して都会の大学へ進学すると言う。ああ、夢を叶えようとしているのだ。薫は何時も私の先へ行く。その行動力が時に羨ましい。同い年なのに、まるで人生の先輩の様に、一歩も二歩も進んでいる。私も頑張らなくてはと思う。自分の人生なのだ。大切にしなくては。

 今年の冬は寒さが厳しくて、学校でも風邪が流行して、欠席する生徒が増えていた。私は風邪を引いたことが無いので、今回も無事だったけれど、明子が家族から移されてしまった様で、三日ほど休んだ。一人での下校は久しぶりだったので、何だか心もとなくて寂しかった。

 だからなのか、又まぼろしを見てしまった。信号待ちしている人達の中にあの人が居た。足が動かず、立ち止まっている間に信号が変わってしまい、人の流れに飲み込まれる様に消えて行った。見間違いなのだ、と自分に言い聞かせた。こんな事ある訳が無い。

会いたいと言う想いが強すぎて、まぼろしを見てしまったのだ。

 時間が解決してくれる、と思っても、その面影は一向に薄れる事も無く、鮮やかになるばかりだった。胸が苦しくなって、知らぬうちに涙を零している事に気づき、一層切なくなった。

 耐え切れなくなった私は明子に想いを打ち明けた。明子は私の話を一言も口を挟まずに聞いてくれた。話し終えると、素敵な恋だね、と優しく言って微笑んだ。それだけで目の前の曇りが晴れた気がした。ああ、私は誰かにこの想いを聞いてほしかったのだ。閉じ込めてばかりだったから苦しかったのだ。想いを口にした事で清々しい気持ちになれた。

 

  ありがとう、聞いてくれて。

  

 心から明子に感謝した。薫と言い、明子と言い、私は友人に恵まれた。