1篇 桜色の君へ その4

 

 淡々と日が過ぎて行き、いつの間にか二年生になっていた。本格的に進路を考えなければならない学年でもある。肇は北の大地に憧れていて、大学も其方へ希望しているようだった。僕は都会に惹かれる所もあったけれど、人の多さに圧倒される点もあり決めかねていた。両親は僕の気持ちを尊重すると言ってくれたが、将来どうなりたいか良くかんがえるようにと諭された。少し突き放された様に感じたのは甘えていたのだろう。

 ある日、肇との何気ない会話の中で、薫が西高校を目指していると聞かされた。肇は兄だからか薫に厳しくて、あいつには無理だと思うと、眉間に皺を寄せて言うのだ。それでも薫が後に引かないのは、親友が西高校を選んだから一緒に行きたいと言う、単純な理由だったらしい。その親友が誰なのか気になったが、誰とは聞かなかった。名前を聞いたところで、薫の友人など分かる筈もなかった。

 秋になると、肇は勉学に励みたい、と言う理由で吹奏楽部を止めた。後から知ったのだが、ちょっとした事件があったらしい。肇は何も言わなかったし、僕も聞かなかった。誰にだって口にしたくない事があるものだ。

 ここ数年、暖かい冬が続いていたが、今年は冷え込みが厳しくて、防寒着も厚手のものにしていたのに、予想よりも寒くなり体が強張った。急ぎ足で歩いていると、目の前に白いものが落ちて来た。見上げると雪がふわりふわりと、降るというよりも舞っているかの様だった。

 一瞬、立ち止まった分、周囲への気配りが散漫になってしまったらしく、どすんと誰かにぶつかってしまった。謝ろうとして顔を前に向けた先にいたのは桜の少女だった。驚きの方が大きくて声を飲み込んでしまった。真っ赤になった少女は謝罪の言葉と同時に、体を二つ折りにして頭を下げた。そのまま逃げるように横をすり抜けて行ってしまった。僕の、こちらこそごめん、と言う声が聞こえただろうか。あまりにも唐突な出会いと別れの衝撃に頭が真っ白になった。