http://sankei.jp.msn.com/smp/sports/news/120927/oth12092718170001-s.htm


日本中が熱狂し、多くの感動をもらったロンドン五輪が終わり、いよいよ冬季スポーツのシーズン到来です。私にとっては27歳で迎えるシーズンになります。また多くのファンの皆さんの前で納得の演技ができるように、今は練習の毎日です。

 昨年3月にフランスのニースで行われた世界選手権で3位になり、初めて表彰台に立つことができました。実は選手権の前には、もしかしたらこの大会が現役生活で最後の舞台になるかもしれないという覚悟もしていたのです。

 ■納得できない演技

 理由はいくつかありました。最も大きな要因は、グランプリシリーズのNHK杯で初優勝することができ、年末の全日本選手権でも準優勝と良い成績が続き、「もし、ここでやめても悔いがないようにという気持ちで練習をしよう」と決めたのです。周囲の人やコーチにも言わず、もしそうなっても、「自分はこれでいいよね」という自答だけ。これだけやったから「よし」って、思えるようにしようと思っていたのです。

 年齢的なこともあり、選手権で表彰台に立つことができた後も、スケートを続けるかの悩みは正直ありました。それが、4月の世界国別対抗戦で、日本は初優勝を飾ることができたのですが、私自身は納得といえる演技ができず、「これではやめられないな」と現役続行に気持ちが固まったのです。

 ■精一杯を出し切る

 そんな思いで迎えるシーズンですが、現在の心境は「もっと自分を高めていきたい。自分の理想にもっともっと近づきたい」とものすごく前向きです。正直にいえば、昨季は確かに成績はよかったけど、感覚としては、自分の満足感よりも成績が上回ってしまっていました。「じゃあ、自分が満足できた演技ができたときは、いったいどこまでいけるんだろう」。そこに立ったときの“景色”が見たくなりました。

 読者の皆さんの中にも、何かをやめるか続けるか、悩むことってないですか。私がもし、やめることを選んでいたとしたら、きっと「もうちょっとできたのになあ」という気持ちが、どこかにあったと思います。もちろん、続けてみたら、自分のスケート人生の中で、昨年が最高の成績だったということになるかもしれません。でも、成績とか結果だけじゃないなというふうにも考えています。

 私の場合は、自分のスケートをこれからどうやっていこうかと思考を巡らしたり、もっと高めていきたいなと思う気持ちがある限り、やめる必要はないかなと思いました。「今の自分の精一杯を出し切る」。思い返せば、今までもそうやってやってきました。

 ■杉山愛さんの助言

 私の背中を押してくれたアスリートの先輩もいます。元プロテニスプレーヤーの杉山愛さんです。オフにテレビ出演で一緒になり、お話をする機会がありました。杉山さんからは「やれる環境があって、自分がまだやれると思う限り、やってみるべき」と言ってもらいました。

 フィギュアスケートは10代や20代前半の選手が活躍するイメージがあるんじゃないでしょうか。その中で、長く競技を続けるというのはリスクもあるのかもしれません。人間って、成績が落ちていくのをみるのがつらいと思うんです。私自身も実際にそうなってしまうと、落ち込むかもしれません。でも、自分がどこまでやりきれたかということに重点を置いたら、スケートを終えたときに、気持ちが違うかなとも思います。

 未来に対して不安になるよりも、前向きにやったほうがいいなって。未知の領域に挑戦するほうが、私らしいんじゃないかとも。27歳で現役を続けることが難しいという人がいるなら、私自身がその道を切り開いていきたい。今季はそんな挑戦の第一歩になります。

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 フィギュアスケーターの鈴木明子です。今回からコラムを4回にわたって執筆します。27歳のシーズンがまもなく開幕。これまでの選手生活、これからの目標、日々を歩む中で思ったことなどを自分なりの言葉でつづっていきたいと思います。(フィギュアスケーター 鈴木明子/撮影:吉沢良太/SANKEI EXPRESS

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 ■すずき・あきこ 1985年3月28日、愛知県豊橋市生まれ。フィギュアスケート女子シングルスで2010年バンクーバー五輪8位入賞、12年世界選手権銅メダル。邦和スポーツランド所属。趣味はヨガ、読書。