http://hochi.yomiuri.co.jp/column/shirota/news/20120224-OHT1T00226.htm


四大陸選手権・女子総論

 日本勢は男女の銀メダル2つに終わった。全米選手権を制したアシュリー・ワグナーの勢いが、この大会にも表れていた。試合ごとに強さを増しているようにも見える。SPはプライドが氷上にも表れていたように感じた。序盤の3回転フリップ+3回転トーループの連続ジャンプ、2番目の回転は大丈夫か? と思ったが、判定は足りていたようだった。


 もともと、3回転3回転は彼女の持ち札。3回転ループ、ダブルアクセルと続けたジャンプ要素には、たくましささえ感じる。スピンは3つともレベル4。ストレートステップシークエンスも曲に合わせて力強い滑り。上り調子の力が氷上の演技として出ていた。2位で発進した。


 フリーでは、まさにブラックスワンそのものだった。安定した3回転フリップ+2回転トーループ+2回転トーループのコンビネーションで始め、ただ一つダブルアクセル+3回転トーループを行う予定が、ダブル+ダブルになってしまったことが唯一の失敗だった。「アクセルがほんの少し曲がってしまったので、3回転トーループにするために余計なエネルギーを使わず、ダブルでプログラムの流れを保つと共に、プログラムの他の部分のためにエネルギーを回せるように」という今季の経験が生きていた。


 コロラドスプリングスのように標高1800メートルと高い会場の演技遂行には必要なことで、それは大事なこと。スピンでも、曲想に合わせての強弱のあるポジションと速さなど全てレベル4で、地の利をフル活用した演技内容だった。すべて完璧に運んだ。ワグナーのエレメンツにはただ一つもマイナスの技術評価点は見当たらなかった。振付師のフィリップ・ミルズが作り出した白鳥と黒鳥のオディールのすべてが、そこに表れていた。


 テーマになり切った滑り、スパイラルの時の腕の動きなどがそのドラマ性を見事に表現していた。6つのクリーンな3回転と、3つのスピン要素とステップの演技を見事に氷上に並べ128・34という点を取り、トータルでは驚くべき192・41点を出した。これは今季女子の最高点。3月の世界選手権(フランス・ニース)に向け米国にとって、頼もしい選手が復活した。


 新しいブルーのコスチュームに身を包んだ浅田真央。とても落ち着いて氷上に立っている感じがした。高地トレーニングも体になじみ、SPを迎え余裕すら感じるスタートだ。


 序盤、トリプルアクセルに挑んだ。久しぶりのトライだ。少し、スピードに欠けている感じは慎重になったせいなのか? と思ったが、腕もよく引きつけ、タイミング的にはまぁまぁかなという踏切だった。しかし、体が回りきらなかった。回転不足とランディングミスで、減点2~3になってしまった。今回のトライの目的は、もちろん世界選手権に向けて。前向きとなった真央の姿は、ファンや関係者に対して「すっかり独り立ちしたのよ~」という意味にも受け取れた。


 3回転フリップ+2回転ループと単独の3回転ループもタイミング、曲とのマッチングは良かった。ストレートステップもスケートの質の向上からか滑らかで確実にターン。ステップに磨きがかかってきた。スピンは全てがレベル4。各スピンの特徴を真央ならではのポジショニングで加点を取っていく。一番苦手な音を取るタイミングも大部分は向上してきている。何より、落ち着いて各要素を確実にこなしているという演技は、もう一つ大きくなった真央を見た気がした。佐藤信夫コーチの指導のおかげだろう。当然1位通過。


 着実に上向きな気持ちになり、気がかりなジャンプも安定してきた。フィギュア・スケーターとして生まれてきた真央。スケーティングの技術も滑らかさを増してきて大人の質感が出てきたように感じる。ここ2~3年の不安定な時期を乗り越え、今季はセンスといい、ハイクオリティな演技が見られるようになってきた。今大会はトリプルアクセルのトライに重点を置いた。


 フリーの序盤はトリプルアクセルで両足着地気味となり回転不足を取られてしまった。3回転ルッツで着地時に手を付たり、ジャンプでの不安定さは否めないが、跳ぶことがスムースになってきたことは前進。だが、ジャンプでの高い加点が貰えないことが少し問題だ。各スピンは全てレベル4を得ている。素敵なポジションで、真央らしい可憐(かれん)さと、クオリティーの高い回転は評価が上がってきている。


 しかし、真央の本当の良さはまだ見え隠れの状態だ。プログラムにスピード感と緩急が必要だろう。欧州選手権覇者のカロリーナ・コストナー(イタリア)と、今大会劇的に「ブラック・スワン」を演じ切ったワグナー両選手の研究が必要と、真央自身が感じる覚悟が必要だ。どう世界選手権までに調整していくかが、女王奪回のカギになる。


 キャロライン・ジャンのSPは、3回転ループ+3回転ループでのコンビネーションで仕立ててきた。米国勢は3回転+3回転の勢いだ。第2ジャンプの着地でバランスを崩し減点。しかし、3回転ループの回転は足りていた。相当に力がなければループ+ループは出来ない。3回転フリップ、ダブルアクセルもちょっと癖があるが、力強いジャンプだ。現在のコーチ、ピーター・オペガードのおかげか? タンゴの曲を選び、少し、大人っぽく演じた。


 スピンは彼女の「十八番」。もちろんレベルは全て4。パールスピンは素晴らしかった。しかし、ジャンプコンビネーションの着地ミスが響き4位発進となった。フリーはキャパシティの広さを見せてくれた。7つのジャンプ要素のうち4種類5つのトリプルジャンプをこなし、スピード、テクニック、リズム、強さをもって楽に要素をクリア。パンチがあるレベル4のスピン要素も、演技をなお一層プログラムに重厚性を与えた。2007年世界ジュニア金メダリストは、息を吹き返して銅メダルをつかんだ。


 村上佳菜子のSPも素晴らしかった。表現力もだいぶついてきて、大人のトップスーケーターとして見劣りしない力があると感じる。プログラムの序盤の3回転トーループ+3回転トーループのコンビネーションジャンプは圧巻。スピード感、高さ、飛距離と申し分がないほど流れもあった。その他のジャンプ要素も問題なくこなし、技術評価点では加点も貰えた。


 スピンは全てレベル4と漏れがなくこなし、ステップシークエンスもレベル4と曲想にも調和が見られて、GPシリーズでの低迷が嘘のようだった。3位で通過し、メダルに期待がかかったが、フリーまでは備えが十分ではなかったようだ。世界選手権に向け調整を山田コーチと共に努力していくだろう。今後の成長がますます楽しみになってきたように感じる。


 今井遥はどうも不調が続いているようだ。疲労骨折した右足首を、大会前に捻挫して迎えた。今後は佐藤有香、ダンジェンコーチと共に来年に向けて焦らず、自分の足りないところを補いながら、真のフィギュアスケーターとしての訓練に期待し、軌道を修正できることを望んでいる。


 この大会はワグナーの成長と、キャロライン・ジャンの復活が目を引いた。全米女王のワグナーの勝利は、この5年間の米国勢初のISUシニア大会でのタイトルだった。元気を取り戻した米国の勢いが、世界選手権にもつながるようだと黄金期が戻ってくるかもしれない。