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折山淑美

■ファイナル出場権をかけた決戦

グランプリファイナル出場権をかける決戦となったNHK杯で、優勝した高橋(右)と2位の小塚
グランプリファイナル出場権をかける決戦となったNHK杯で、優勝した高橋(右)と2位の小塚【坂本清】

 今季のGPシリーズ第4戦のNHK杯。11月12、13日に行われた男子シングルは、開幕戦のスケートアメリカ3位の小塚崇彦と第2戦スケートカナダ3位の高橋大輔にとって、12月8日(現地時間)から開催されるグランプリファイナル(カナダ・ケベック)の出場権を獲得するための決戦でもあった。ともに優勝すれば出場は確定するが、敗れればその可能性は微妙になるからだ。

 二人は今季、さらなるレベルアップのために新たな試みを始めている。今年の世界選手権で2位になった小塚は感情表現に磨きをかけようとし、高橋は膝の手術で残っていたボルトを除去した新たな体での4回転ジャンプの完成度を高めようと、リハビリを終えてからの夏にはフランスへ渡ってスケーティングの見直しをした。だが、それを自分の演技とマッチさせようとする途上だったシーズン初戦のグランプリでは、ともにジャンプでミスが出るなどで納得できる結果を出せていなかった。


■高い完成度を見せた高橋、感情表現にこだわった小塚

世界歴代3位の高得点でSP首位発進となった高橋
世界歴代3位の高得点でSP首位発進となった高橋【坂本清】

 そんな状況の中での最初のショートプログラム(SP)、先手を取ったのは高橋だった。スケートカナダと同様に4回転ジャンプを入れず、冒頭のジャンプを3回転フリップ-3回転トゥループにする構成だったが、3回のジャンプは丁寧にかつ正確に決め、カナダではミスをしたスピンも修正。余裕を持った完成度の高い滑りを見せ、自己ベストで世界歴代3位となる90.43点を獲得したのだ。

「4回転も入っていないので100パーセントの演技ではないのに、90点台の得点にはビックリしました。これで4回転が成功したらどうなるんだろうと思うけど、カナダに比べて自分の中の進化を感じられたから、そこは良かった」

 今シーズンは膝のボルトの除去手術後のリハビリもあり、練習を始めたのは例年より2カ月遅れた。だが6月の時点で「今年は無理に結果は求めない。来年、再来年につながればいい」と言っていた心の余裕が、自然体で自らのプログラムをこなせる要因にもなっているのだろう。そのためか練習などでのジャンプの失敗も、「以前はパンクなどの変な失敗もあったが、今年はそういうのがなくなって自分で原因が分かる失敗になっている」と、スケーティングから見直した成果を口にする。

 一方の小塚は、「この試合にはファイナルの出場権がかかっているから」と、スケートアメリカで転倒している4回転トゥループを回避する安全策を取った。「試合前の6分間練習に入る前に、佐藤信夫コーチから『昨日の練習で跳べてないから、今回は4回転を入れない方がいいんじゃないか』と言われました。練習中にもしっくりした感触がなかったので自分でも回避すると決め、3回転フリップを試したら跳べたので、それに替えることにしました」
 だがそのフリップで小さなミスが出てしまった。その後のジャンプやスピン、ステップなどは大きなミスなくこなしたものの、各エレメンツの加点はすべて0点台と少ない。
 指導する佐藤信夫コーチは、その現状をスケート靴の問題が大きいと説明する。スケートアメリカのフリーの後で靴が壊れてしまって替えたが、それがまだなじまず痛みも感じる状態。スケートを完全にコントロールできるところまでは到達していないというのだ。

 そういう中でも小塚は課題である感情表現にこだわったが、結局はリズムに乗り切れず中途半端な演技になってしまった。2位には付けたものの、高橋には10点以上の差を付けられる79.77点にとどまったのだ。


■圧勝した高橋と小塚の差とは

小塚はフリーでも波に乗れず、2位に終わった
小塚はフリーでも波に乗れず、2位に終わった【坂本清】

 翌日のフリーも、小塚はいつものようなテンポのある滑りはできなかった。冒頭の4回転トゥループは回転不足で両足着地。続くトリプルアクセルは余裕を持って決めたが波には乗れず、本人も「何とか踏ん張ったという感じ。いっぱいいっぱいの演技になってしまい、何かをつかんだというより、『やっと終わった』という感じの演技になってしまった」と振り返る。
 だがそれでも「これまではファイブコンポーネンツでもスケーティングスキルだけが突き出していたけど、ほかの要素の得点も伸びるようになった。その点では感情表現も認められるようになっているのだと思う」と自己評価する。

 それに対して高橋は、最初の4回転フリップで転倒し、SPでは完璧に決めていた3回転ジャンプも終盤には回転不足を取られるミスもあった。だがそれを滑りでカバー。以前よりしなやかで粘りのある滑りで、ファイブコンポーネンツは3要素で9点台を獲得。フリーは169.32点。合計でも259.75点にし、2位の小塚に24.73点差をつける圧勝でGPファイナル進出を決めた。
「4回転フリップは6分間練習で初めて成功したのでやってみました。回転不足にはなったけど、試合で初めて4回転と認定されたのはうれしいですね。今後はSPでも入れられるくらいに4回転ジャンプに安定感をつけていければいいと思うけど、ブランドン・ムロズくん(米国・今回国際大会初の4回転ルッツを認定された)はすべての跳び方で4回転をやっているというから、それに負けないようにいろいろ試していきたいですね」とさらなる成長を意識する。

 自分の滑りを見直し、それによって武器である表現力に磨きをかけつつ、徐々にジャンプの完成度を高めようとしている高橋。それに対して「高橋選手は安定しているというか。全体的なドッシリとした雰囲気は僕にはないものだと思う」と言う小塚は、靴の変更というアクシデントの中でも自分の弱点といわれる表現力の向上に真っ向から取り組もうとしている。二人が感じている、自分の課題の大きさ。その差が今回の結果の差になって表れたとも言えるだろう。

 高橋はGPファイナルへ、そしてファイナル進出が微妙になった小塚は全日本選手権へと、次の照準を合わせた。

<了>