http://www.asahi.com/sports/column/TKY201104220337.html


思い切り演技 励みになれば


テレビの画面を通して見た未曽有の被害。思わず、言葉を失った。


 「地震があった時はちょうど愛知の家にいた。『揺れたな』と思ったけど、そのあとにテレビで次々と被害の映像が流れて……。正直言ってこんな時期に、世界選手権に行ってもいいのかなと思ってる」



 複雑な胸のうち。だが、日本連盟が派遣を決めたとなれば、行かざるを得ない。行くからには――。


 「今、私にできることは、このシーズン、今までやってきたことを思い出しながら、試合で思い切って滑ることだけ。被害にあわれた方の中にも、応援して下さっている方がたくさんいらっしゃる。被害で苦しんでいる方はそれどころではないと思うけど、一生懸命演技する自分を見て少しでも励みになればいいと思う。それしかできない」


 昨季の世界女王という看板は「忘れたつもり」で挑むという。ジャンプの修正に手間取り、出遅れ感があった今季、震災による1カ月の延期はどう出るか。


 「2月の四大陸選手権(台北)の後は、3月に予定されていた東京の世界選手権に向けて自分を追い込んできました。だから、東京大会が中止になった時点で佐藤信夫先生から『まず休みなさい』と言われた。体も心も追い込んできたから、やはり一度リフレッシュしないと良い状態は維持できない。震災の直後から1週間練習を休んだ。(モスクワでの代替開催が決まり)1カ月先の大会へ向けて気持ちを切り替えることができた」


 同じ佐藤コーチの指導を受ける小塚崇彦(トヨタ自動車)との練習が多かった。男子のスピード感やジャンプの力強さを肌で感じながら、取り組んできた。


 「1日4時間の氷上練習で、ショートプログラム(SP)、フリーを1日1回は通し(曲をすべて流して演技すること)で滑り込んできました。震災の影響で練習は一時中止となったけど、それ以降は毎日やるべきことをコンスタントにやってきた。四大陸選手権で見つかった課題。佐藤コーチから言われているんですけど、『もっと元気よくスピード感を出してプログラムを滑りなさい』ということに気をつけてきた」


 モスクワは第二の本拠とも言える地。昨季まで2季続けて習ったタチアナ・タラソワ氏も待っている。


 「ロシアには悪いイメージはない。今季のSPを振り付けてくれたタチアナ先生がいらっしゃるので、衣装の手直しをやってもらうかもしれない。世界選手権が一度は中止になったと思った分、気持ちは少し落ち込んだけど、1週間休んで、練習をしっかり積むことはできた。今は前向きにとらえて試合に向かえる。気持ちはベストで臨めます」


(坂上武司)



◆「大人への第一歩」 母・匡子(きょうこ)さん


 今季は真央にとって、昨季の五輪を経験して「大人」のスケーターになる第一歩のシーズンになっているような気がします。


 今までいろんな先生に指導を受けて、良いところを吸収させてもらった。どの先生からも真央はかわいがってもらって、今でもアドバイスを頂くことはある。


 シーズン前、真央はジャンプを一から見直したいと望んで、小さい頃に学んだことのある長久保裕先生のレッスンを受けた。私は「真央が今、何をやりたいか」を大切にしています。


 9月から佐藤信夫先生にメーンコーチをお願いしました。今後の真央のことを考えると、もう日本の先生で真央を預けられるのは佐藤先生しか思い浮かばなかった。真央も佐藤先生の指導を受けたがっていた。


 もちろんいくら有名な先生であっても、お互いを理解するのに3、4年かかることは理解しています。実績のある佐藤先生のもとで、真央は2014年ソチ五輪を目指すつもりです。