アイス・ショーの行きつくところ(中)

http://hochi.yomiuri.co.jp/column/shirota/news/20110330-OHT1T00206.htm



 

 前回は成り立ちなどを説明したが、今回から3回に分けて今年2月にチューリヒ(スイス)で行ったショーを紹介する。


 出場したフィギュアスケーターは、バンクーバー五輪のために復帰し、中国初のペア金メダルをつかんだチェン&ザオ組。念願の金メダルを獲得したプルシェンコ(ロシア)、トリノ五輪で日本初の金メダルに輝いた荒川静香の五輪ゴールドメダリストたち。さらにバンクーバー五輪銅メダルで、2度の世界選手権覇者のペア、アリオナ・サフチェンコ&ロビン・ゾルコヴィ組(ドイツ)と、バンクーバー五輪銅メダルのジョアニー・ロシェット(カナダ)。トリノ五輪銅メダル、2008年世界選手権優勝者のジェフリー・バトル(カナダ)、今年の欧州選手権女王のサラ・マイヤー(スイス)。そして、このショーに、忘れてはならない世界選手権2度優勝とトリノ五輪金メダリスト、ステファン・ランビエール(スイス)が出演した。


 一方、共演した歌手は、世界を一世風靡(ふうび)してきたドナ・サマー。メゾソプラノ歌手のキャサリン・ジェンキンス、ゲィリー・スコットはギター&歌で、2人のコメディアンの司会は会場を引き立たせ、フルオーケストラと指揮者、氷上と音楽とボーカルとの共演はショーを、尚一層引き立たせた。またバックダンサー、バックコーラスにフライング・アクロバット・グループと、一つのショーとは思えないほどたくさんの顔ぶれだ。中央にリンク、3方向に客席、縦方向に舞台があり、その後ろにバック・ドロップ・スクリーン、前にゲストシンガー用のステージ、横にはオーケストラーが控えている。その装備光景を目の前にし、どんなショーが繰り広げられるのかワクワクした。そして客席の明かりが落ちると、レーザー光線を含むファンタジックな照明がリンク&ステージを照らし始め、一気にショーの世界へと幕が開かれた。


 これから印象に残った演目を紹介してみよう。まずは第1部。ロシェットは得意のタンゴの曲に合わせ、現役時代よりも演技と技術向上には感銘! 3回転ジャンプも健在。バック・ステージではダンサーたちが踊り、後ろのスクリーンに壮大な映像が流れ、若い歌手とのコンビが又、絶妙。硬いイメージだったロシェットに、いつから女性らしさが呼び起こされたのか? スケートの上手さとセクシーさが合わさって中々良い構成。演技経験を積んで円熟して来た彼女に拍手。素晴らしかった。


 ロシアの新ペアのタチアナ・ヴォロゾジャー&マキシム・トランコフ(ロシア)。ウクライナから国籍を変え結成され、わずか1年足らずでロシア選手権を制覇したペアは、キャサリン・ジェンキンスのきれいな歌声に乗って演技した。ペアとしての要素には才能はあると思うが、もう少し時間が必要かと感じた。ユニゾンを学び終えた2人の将来が楽しみ。きっと、このショーが良い勉強になった事と思う。


 欧州選手権優勝で引退声明を出したサラ・マイヤーのプロとしての第一歩の演技は、バック・スクリーンにベージュのベールをかけた清らかな女性が祈りをささげ、ろうそくに火をともす映像。現役最後の大会の優勝を祈っているかのようにも見えた。その時、舞台のそでから、同じベールを付け氷上に現れたのはサラだった。ジェンキンスの歌声に合わせ滑りだした曲は「プレイヤー」。心憎い演出だった。


 今度は騒々しいフィーリングのシーンでスタイルがガラッと変わる。進行役のコメディアンと舞台裏の楽屋の映像、ドアにジェンキンスの表札がかかっている。そこへコメディアンの相棒が行くと、中からサングラスを掛けたジェフリー・バトルが出てきて、氷上へと画面は変わる。ステージでは男性歌手が「サングラス・アット・ナイト」を歌い、そのメロディに合わせて新しい面を引き出したバトルの演技、スケートの上手さがここでも発揮していた。


 荒川静香の出番が来た。ジェンキンスが再び登場、曲は「リヴ・フォーエバー」。柔らかい高い声と、その力強さが荒川の伸びのある高いスケート技術に良く合う素敵な演技だった。彼女のジャンプの正確さが一層上手さとして引き立たせ、歌手と氷上の舞姫との共演は良い組み合わせだった。


 目を引いたのはスイスの貴公子、ランビエールのシーン。1部のヤマ場だ。ジェンキンスのヴォーカルの流れる中、雪の中を思いつめたように歩く女性と、松明(たいまつ)を手に歩くランビエールが交互に映し出される。雪の中で倒れた彼女を見つけ抱き上げる…幻想的でロマンチックな感じもする映像の「雪と氷」。ランビエールのために作り上げたという感じもする。氷上では得意のスピンをふんだんに入れて独特の間の取り方のスケートという、ランビエールの世界を見せてくれた。


 次はサフチェンコ&ゾルコヴィペアの演技にオーケストラが奏でる「ピンクパンサー」。実に見事に曲想にマッチし、氷上がカラフルでいかにもピンクパンサーに合う感じがいい。1部の締めはプルシェンコ。バンクーバー五輪SPでもおなじみな曲調はタンゴ。ここでしっかりとした演技。3年後のソチ五輪まで、第一線でやれる健在ぶりをアピールしていた。