http://hochi.yomiuri.co.jp/column/shirota/news/20100907-OHT1T00155.htm


華やかな裏方 振付師たちの功績と可能性(その14)


 さて、ここまで紹介した人々以外にも、注目したい振付師、新進の振付師を、何人か挙げてみたい。


 まったくフィギュアスケートの競技経験がない振付師は、ジョゼッペ・アリーナを除けばなかなか出てこなかったが、2006―07年シーズンにステファン・ランビエールを振り付けて一躍話題になったのが、スペイン人のアントニオ・ナハロ。ランビエールの踊ったフラメンコのプログラム「ポエタ」は、その後何度もアイスショーでも披露され、彼の代表的なプログラムとなったが、これはスペイン国立バレエ団ダンサーとして活躍していたナハロの手によるもの。スケーターではなく本物のフラメンコダンサーだからこそ作れた本格的な作品だ。


 また、滑り手もランビエールという完成されたスケーターだったから、選手を伸ばすというよりも、ショービジネスの作品を作る感覚でナハロは手腕をふるうことができた。ランビエールのような高いレベルの選手ならば、ダンスの各ジャンルのプロにプログラム作りを依頼するのもひとつの手だろう。日本でも劇団の関係者がスケート選手の振り付け指導に当たっているケースもある。


 しかしここでネックになるのは、他ジャンルのダンサーではスケートを滑ることができないので、スケートのステップや滑りの美しさを生かした振付けが難しいということ。ナハロなどはフィギュアスケートの振付師のサポートを得ながら作品作りをしているという。また子どものころから誰もがスケートを楽しむ習慣があるカナダなどでは、どんなダンサーもある程度滑ることができるので、氷上でスケート靴のままヒップホップの指導をする、といったケースも多い。


 フィギュアスケートの外の人材を生かす方法は、さらに注目されていくだろう。その中心人物のひとりであるナハロは、日本のファンタジーオンアイスなど、アイスショーの振り付けも手がけ、一層活躍の場を広げている。さらに今季は、ブライアン・ジュベール、ジェレミー・アボット、ナタリー・ペシャラ&ファビアン・ブルザなどに競技用プログラムを提供しているというから楽しみだ。


 カナダ人に比べると意外に目だたいない米国人では、コロラド州コロラドスプリングスで活躍中のトム・ディクソン。ジェレミー・アボット(現在はデトロイト在住)、ライアン・ブラッドリー、レイチェル・フラットらのプログラムで注目された振付師だ。また日本の濱田美栄コーチが長年コロラドで夏合宿をしていた縁で、太田由希奈、沢田亜紀、神崎範之らにも素敵なプログラムを提供してくれていた。


 特に08年のGPファイナルチャンピオンにまでなったジェレミー・アボットは、4回転を美しく跳びつつタンゴのプログラムでも魅せ、五輪を間近に控えたシーズン、ぐんと頭角をあらわした。この年に、「アストル・ピアソラメドレー」でジャンプもエレメンツもきちんと入った、完成されたプログラムを作ったのが、トム・ディクソンだ。この人ならば、芸術に偏ることなく、勝てるプログラムを作ってくれる。また誰か日本の選手を送ってみたいな…などと思っていた振付師だ。