「犬と猫と人間と」 名古屋と東京と新潟で公開中


現在の日本の犬と猫と人間の関係を

ありのままに冷静に伝えるドキュメンタリー。

それは猫おばあちゃんと呼ばれる

一人の女性との出会いから始まる。

猫おばあちゃんこと稲葉恵子さんは

今まで多くの捨て猫を世話してきたが、

自分の年齢のことも考えて

「大人も子供も、動物を大切に思ってもらえるような

映画を作って欲しい」と監督に依頼する。

そして、取材はスタートした。

行政施設や民間の動物愛護団体を中心に

個人で迷子犬や迷子猫の面倒を見る方々、

捨て犬を保健所に連れて行かれないように

自分たちで面倒を見ながら飼い主を探す小学生たち、

やむを得ず飼っていたペットを連れてくる人々。

そんな境遇により施設にいる個性あふれる犬や猫たち。

日本とは異なるペット事情を持つイギリス。などなど。

そこから見えてくる犬と猫と人間の関係は

想像を絶するものであった...。


監督は飯田基晴。「あしがらさん」や

「今日も焙煎日和」などを手がける。


“ペット大国”と言われる日本ですが、

決して“ペット天国”ではないその姿が見えてきます。

とにかくとてもショッキングで、人間であることが

居た堪れない気持ちになりました。

何がショッキングって、次々と映し出されてくる映像が

真実であるということに打ちひしがれました。

毎日、次々と行政施設に収容されるたくさんの犬や猫。

施設によっても異なりますが、収容されて5日間経っても

飼い主が現れない場合、6日目には死んでしまいます。

(“殺処分”という言葉は個人的に違和感を感じており、

“殺される”と言っても間違いではないのですが、

実際に行う職員の方々はそれをしたくてしてるわけではないので、

あえて“死んでしまう”と言わせていただきます。)

そんな状況を少しでも減らしていこうと奮闘する

行政施設や動物愛護団体の方々。

それぞれの目指すところは異なっていても、

少しでも多くの動物を救いたいと活動する姿には頭が下がります。

映画の中には去勢手術のシーンも出てきます。

雄は睾丸を摘出、雌は子宮を摘出するその手術では、

ときにお腹に赤ちゃんを宿してる雌もいます。

生まれてくるはずだった、生きるはずだったその命が

摘出された子宮の中に確かにあるのです。

それはあまりにも残酷な現実で、思わず目を伏せたくなりますが、

それは許されないことだと感じました。

どんなに酷く辛いことでも、それは人間の欲と業によるものであり、

その尻拭いをするのもやはり人間なんです。

人間は本当に罪深い生き物なんだと痛感し、

人間に生まれたことが嫌になってしまいました。


飼っている生き物のことを家族だと言う方は多いでしょう。

生き物をいとおしいと思う気持ちはとても大切なことで

生き物を家族と呼ぶことも理解できます。

ペットと呼んでも、家族と呼んでも、どちらにしても

変わらないのはそこにある飼い主としての責任であり、

飼い主の意識がとても重要であることは間違いないと思います。

田舎では、未だに飼い犬を放し飼いにしているところも多いようです。

そんな犬が別の家の犬と接触することで、

生まれてしまう命に飼い主は責任がもてるのでしょうか。

そこまで想像して、つないでおくことが責任なのではないかと思います。


動物愛護大国と呼ばれているイギリスでは

野良犬や野良猫を見ることがほとんどないそうです。

たとえ見つかったとしてもすぐに保護されて、

良心的な保護団体であれば里親が見つかるまで面倒を見てくれます。

取材していた団体では、よほどの重い病気でなければ

100パーセント飼い主が見つかるそうです。

飼い犬を求めて、動物愛護団体を訪れた少年の

「この犬たちは不幸な目にあっている。

だから幸せにしたいんだ。」という言葉に救われました。


観る前は、内容的にテレビの方が向いているのではと思いましたが

仮にこれをテレビで流した場合、育てることを、看取ることを放棄した

飼い主が取材された施設に生き物を置いていく可能性は高いのです。

とても身勝手で、とても悲しいことですが、そういった事実が

今の日本の現状の原因のひとつであることに間違いはありません。

生き物を飼っている人はもちろんですが、

飼っていない人にも観て欲しい作品です。

人間が犯した罪を償えるのは人間だけであり、

これは知っておかなければいけない真実であり、

知らないこと、知ろうとしないことはそれだけで罪だと感じます。


ちなみにタイトルは2006年に日本の施設で死んだ犬と猫の数です。

犬だけで言えばイギリスの約15倍という驚くべき数字です。

(ちなみに日本の犬の総数はイギリスの約2倍)



案山子の独り言
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