先日小学生のバイオリンのレッスンを見学する機会があり、その中での先生の言葉が印象的でした。

 

「今まで色々と細かいこと言ってきたけど、最後は楽しく自由に弾いてね。反対のこと言うようだけど・・・」

 

小学生が理解するのはちょっと難しいかなとも思いましたが、例えばトップアスリートがファインプレーについて振り返る時に、「自然と体が動いて、頭ではなく、体が反応した。」などとコメントする事がよくあります。

 

このように、楽器の演奏でも、スポーツでも、その他芸術的な活動だけでなく、工業的な職人さんなども含めて、全ての技術的なものは必ず基本があって、決まった規則に従って練習を積み重ねていきます。そして、毎日コツコツと積み重ねてきた技術が身についた先に、それを超えた何か新しいものが創造できる、もしくは新しい体験ができるということなのだろうと思います。

 

最近、AIと人の関係について議論されることがよくありますが、AIは決まった課題を高度に、正確に、素早く、継続的に(他にもあるかもしれませんが)実行するは得意です。それに対して人は決まった課題を高度に、正確に、素早く、継続的に実行することはAIに及ばないかもしれませんが、人はその先にそれを超えた新しい創造や体験をする、もしくは今までやってきたことを壊して、反対の価値を作り出すことが出来るという違いがあるのではないかと思います。ただし、決まったこと(基本)から解き放たれるためには、しっかりと基本を身につける必要があると思います。

 

このように考えると、自由な発想で、自由に行動するためには、今まで人が培ってきた基本をしっかり身につけるためにコツコツ努力することも大切です。それはAIが発達してとても人の能力では追いつかなくなったとしても、今までと同じように勉強をしたり、訓練をしたり、経験を積んだりすることで、人の特徴でもある自由や創造が生まれるからです。

 

このように、自由な発想や行動をするために、今あるもの(基本)をしっかり守るというのは、一見すると矛盾するように思うのですが、それが人の人らしい性質であり、不思議なところだと思います。