私は学校が嫌いだった。幼いながらに学校での人間関係に疲れ果て、休みたいと毎日思いながら通っていた。


 しかし学校側に感謝してることもある。「こげぱん」を学校に置いてくれていたことだ。


 「こげぱん」をご存知だろうか。その名の通り焦げてしまったパンが主人公の本だ。

 最初はキレイパンこと綺麗なあんぱんになるはずだった。しかしパン屋のミスでかまどに落とされてしまう。自力でそこから這い上がって生まれたのが、こげぱんだ。


 無邪気なキレイパンとは違い、焦げたパンはやさぐれてしまう。

 こげぱんの魅力はここにあると思っている。

 綺麗なパンのみが売れ、焦げたパンは買ってもらえないという現実。

 生産者や消費者側としては当たり前のことなのだが、失敗作に命が宿り、感情を持ってしまったところが何とも切ない。


 しかしパンの一番の喜びはお買い上げされることなので、お買い上げされる為の努力は欠かさないのがこげぱん。自分のパン生にふてくされ、日々生きる意味を考えながらも、何とかお客さんの目に美味しそうに映るように試行錯誤している。

 そして牛乳で酔っ払うという設定が何とも面白く、可愛い。

 何ともパンらしからぬ、人間くささがある。


 そんなこげぱん、仲間には恵まれている。同じく焦げたクリームパンが一番の親友。彼(?)はこげぱんとは違い、冷静でしっかり者で、こげぱんのストッパー役だ。そんな彼もたまにこげぱんの卑屈さにイラつき、こげぱんの奔放さが羨ましくもなるという、人間くさい部分がある。


 焦げたパンは他にも沢山おり、それぞれが個性的だ。常に判断に迷ってしまうマヨネーズパン、ベタベタまとわりつくのが好きなチョコパン、こげぱんより更に焦げている寡黙なすみぱん等。


 キレイに焼かれたパンも可愛く魅力的だ。世の汚れを知らない純粋無垢キャラが大半だが、カレーパンが辛口キャラってのも好き。

 ちなみにキレイパンの中での私のお気に入りはベリーパン。頭のベリーを落としちゃうところが可愛い。


 キレイなパンしかいなかったら、それはそれで可愛いキャラたちの楽しい作品が出来上がるかもしれない。しかしこげぱんが主役となることで、キレイな世界だけではなくなっている。こげぱんたちは売れない商品として、ひねくれてしまい、けど思い描いたパン人生を諦めきれず、泥臭く生き延びている。その中で「焦げてなかったら出会えなかった喜び」もちゃんと自分で気づいているのが、素敵ポイント。

 そんなこげぱんたちの生き様が、幼いながらに刺さったのかもしれない。






 あのころ教室の隅に置いてあった「こげぱん」、教室で読む人が続出し、あまり好きな時に読めなかった。なので市の図書館に行けば必ず借りた。


 最近になって「こげぱん」を思い出す機会があって、懐かしさのあまり本も購入した。新作を読んでる時のワクワク感は子供の頃と変わってなかった。実はアニメ化もしていたこともその時知った。クリームパンが石田彰なの笑ってしまった。とにかく今でも楽しませてもらっている。


 子供の頃の「好き」は、大人になってもそれほど変わらないんだなぁと思った話だった。読むとパンが食べたくなってくるからある意味危険な本ではある。