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「生成AI」実装の衝撃…人工知能の歴史と特長

Microsoft Copilot~AIで仕事はどう変わるか(1)「生成AI」の画期性

 

渡辺宣彦

渡辺宣彦 日本マイクロソフト株式会社 執行役員常務 エンタープライズ事業本部長

この講義シリーズを贈る

テキスト

ChatGPTに代表される「生成AI(Generative AI)」が社会を、そして仕事を、大きく変えようとしている。日本マイクロソフト株式会社の渡辺宣彦氏によれば、生成AIは「人間の英知をすべて装備している」という。では、いったい、生成AIとはいかなる技術なのか。まずは、生成AIの誕生に至るまでのAI開発の歴史を振り返り、いかに生成AIが画期的な技術であるのかを解説する。(全7話中第1話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)

時間:10:40
収録日:2023/08/01
追加日:2023/09/27

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●「生成AI」は私たちの仕事をどう変えるのか


―― 皆さま、こんにちは。本日は日本マイクロソフト株式会社の渡辺宣彦さんに「AIが社会をどう変えるのか」というテーマでお話を伺いたいと思います。渡辺さん、どうぞよろしくお願いいたします。

渡辺 こちらこそよろしくお願いします。

―― ちょうどこの2023年はChatGPTも大変話題になり、感覚からすると、これまで「AIが社会を変えるぞ」とさんざん言われてきましたけれども、いよいよ本当に仕事や生活の現場に、非常に大きな形で入ってくるのかなという気配が漂っている状況ではございます。

渡辺 おっしゃる通りですね。

―― 渡辺さん、この点はどのように見ておられますか。

渡辺 そうですね。人間の生活、社会のあらゆるところにAIが、とくに昨今話題になっている、今日のテーマでもある生成AIというものがすでに入り込んでいるのですけれども、 これからますますいろいろなところに入り込んできて、われわれの生き方自体を変えるタイミングになったのでないかというふうに私も捉えています。

 ただ一方で、その生成AIというのがバズワード化している部分もあるので、あまりに「どんどん変わって、ものすごいことになるぞ」というようなことを言うのではなくて、現実的なこと、本当に起こりそうなこと、どうやって良くするのかという話を中心に、お客様ですとか、パートナーの方々とお話しさせていただいている最中です。

―― はい。今日はその中でも、とくに「新しい仕事の姿」という点に絞りまして、今回、マイクロソフトから来てくださっているということもありますので、実際にマイクロソフトのいろいろなソフトといえば仕事上で使っていらっしゃる方も多いでしょうから、それがどういうイメージに変わるのかということも含めて、「実際にどうなるのか」についてお話を伺ってまいりたいと思います。

渡辺 はい、わかりました。

―― まず、そういたしますと最初にお聞きしたいのが、まさに冒頭で申し上げた部分なのですが、今、大変話題の生成AIというものの現在位置についてです。これが大きな流れの中で、今どういうところにあるのかをまず教えていただきたいのですけれども。

渡辺 承知しました。では、その現在位置からお話をさせていただきたいと思います。

―― はい。よろしくお願いいたします。

渡辺 川上さん、まず1点、ご説明したいことがあるのですが、今こちらに「AIは社会をどう変えるか」というタイトルが書いてあります。

―― このタイトルページですね。

渡辺 そのイラストがありますが、これはもうすでにAIの話になっています。

―― えっ、これはAIなのですか?

渡辺 そうなのです。これは、実はマイクロソフトが提供しているBingのイメージクリエイターというAIで、 「忙しい仕事の絵」「新海誠風」というリクエストを出して、描いてもらったイラストなのです。

―― なるほど。新海誠風。

渡辺 新海誠風になっているかどうかは、見る方の評価にもよろうかと思うのですけれども、なんとなく感じは出ているかなと思います。

―― この影の形とか、色合いなどもそういう雰囲気ですよね。まさに新海さんのとてもきれいな映像です。

渡辺 そうなのです。細かいところをよくよく見ると、このものは何なのかと、よくわからないものが置いてあったり、線がつながっていなかったりということはあるのですけれども、目的には適っているかなというようなところまでAIが仕事をしてくれているサンプルとして、表紙に使わせていただきました。

―― 面白いですね。

渡辺 そういうところからお話を始めていければというふうに思っております。

―― はい。

渡辺 今日のテーマは“Artificial Intelligence”、まさにAIということで、とくに生成AI(“Generative AI”)についてお話をさせていただこうと思います。
 

●「人工知能」発展の歴史~ディープラーニングからプロンプトへ


 最初に、テクノロジーシフトについてです。私たちの記憶にある中にも何度も起こっていることかなと思うのですけれども、そのテクノロジーシフトが一定の規模(1億ユーザー)にまでなるのに、どのくらいの時間がかかったかという情報になります。携帯電話が16年、インターネットが7年、SNSが4.5年です。ChatGPTは昨年の11月末にリリースされたわけなのですけれども、3カ月で1億ユーザーに到達したということで、どれくらいのスピード感で人々の注目を集めることができているのかということをよく表現しているのではないかと思っています。

―― 携帯電話が出始めのときの雰囲気も覚えていらっしゃる方が多いと思うのですが、そこから16年ということと、この3カ月というのはあまりにも違う差ですよね。

渡辺 そうですね。そのことがどういう意味を持つのかというあたりも、今日のお話の中で感じ取っていただけるように進めさせていただければと思っています。

 では、その“Generative AI”はChatGPTというふうに呼ばれていますけれども、そういうものがどういう位置づけにあるのかについて、少し頭の整理をさせていただこうと思います。

 「人工知能」は、かなり幅の広い言葉になるかと思うのですけれども、まあまあ歴史のある言葉です。ここでは1956年と言っていますけれども、前世紀の20世紀の中頃にはすでにそういうことのためにコンピュータを使おうということが起こってきていました。

 その次の段階にあるのが、ここでは機械学習という言い方をしていますけれども、「アナリティクス」などという呼び方をされることも多いでしょうか。私も社会人になって、コンサルタント時代に、いろいろな機械学習のツールを使ったりしたこともありましたけれども、データを分析して何らかの意思決定ですとか、予測をやろうとしました。これも、まあまあ歴史がありまして、20年以上の歴史があります。

 いよいよ21世紀に入りまして、皆さんが、AIということでいろいろな最新のものに触れるようなことになったのは、2010年以降ではないかと思うのですけれども、その頃には「ディープラーニング」という技術が実用化され、いろいろなことを実現しました。

 では何を実現したのかというと、実はGoogleやFacebook、Metaがここで果たした役割というのはかなり大きくて、たとえば、ご記憶かと思うのですけれど、 AlphaGoという、Googleの傘下にあるGoogle DeepMindが開発した囲碁をプレーするAIが、2016年に韓国の李世ドルという、その当時ナンバー1、2を争う世界チャンピオンの名人と対戦して、5戦で4勝したということが起こって、非常に話題になったのです。ディープラーニングが、もう人間を超えたのかというような話になりました。

―― たしか、ゲームの中でも囲碁というのは相当難しいだろうと言われていたわけですよね。

渡辺 おっしゃる通りですね。そういう部分で、かなりスコープは小さいですが、具体的にすでに人間を超えるような技術が実現したというのがそのくらいの時期です。

 このディープラーニングという技術は、皆さんの生活のあらゆる部分で非常に活用されていて、たとえば、皆さんはFacebookに写真をアップロードされると思いますけれども、そのデータはすべて学習されていて、こういう見た目のものは何を表しているのか、といったようなことをすべてAIのトレーニングに使っていたりします。あるいは、自動運転車はもうすぐ実現するということになってきていると思いますけれども、衝突防止のための仕組みなど、今後なくてはならない技術にディープラーニングというものが使われているということになっています。

 それがもう一歩進んで、今回のテーマである、昨今話題になっている“Generative AI(生成AI)”ということになってきたわけなのですけれども、これは「プロンプト」というふうに呼ばれます。人間が与えたインプットに対して、それを理解した上で何らかのアウトプットを出す。言葉、文章、画像、音声など、人間が直接理解することができるようなフォーマットでのアウトプットを、あたかも人間がやっているかのように返すというのが“Generative(生成)AI”の特徴です。

 これは、図の中で表現している通り、ディープラーニングの技術も使っているサブセット(一部分)だというふうに言えると思うのですけれども、それが2020年代に入って、さらに高度化されたという位置づけになっています。
 

●「生成AI」は人間の英知をすべて装備している


―― 質問させていただくと、生成AIというのはそれまでのものと違って、たとえば文章を出したりとか、画像を出したり、音楽を出したり、そういう能力が高まったというイメージになるのですか。

渡辺 はい、高まっています。

―― 今までのAIとの一番の違いはそこになるわけですか。

渡辺 そうですね。そうだと思います。その、出せている言葉や画像の精度や質において、人間が行っているのと同等のものをつくり出すことができるようになっているのが特徴になるのではないかと思っています。

 それに似たことは、今までにあったAIでも実現できていて、たとえばAlexaやSiriでしょうか。そういったものでも、たとえば「音楽をかけて」とか「ジャズをかけて」ということを言えば、ジャズのミュージックリストを作って、かけてくれる程度のことと言うと、その当時のAIに少し失礼ですけれど、実現できていたわけです。

 しかし、今からお見せするような生成AIのアウトプットというのは、それよりも非常に高度、複雑、かつ、私はよく「生成AIというのは、もう人間の英知をすべて装備しています」という言い方をします。

―― ああ、すべて装備している。

渡辺 すべて装備していると言っていいと思うのです。そういうものをすべて考慮した上で出されている内容です。もちろん間違ったことを言うケースもありますけれども、正しく使われれば、非常に大きなインパクトがあるというふうに言えるのではないかと思います。

―― なるほど。

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