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【令和5年元旦】

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2024年・年頭所感…完全循環型社会と健康長寿社会へ

完全循環型社会と教養の時代(1)これから何が起こるか

小宮山宏

小宮山宏 東京大学第28代総長/株式会社三菱総合研究所 理事長/テンミニッツTV座長

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いま、生成AIが信じられないくらいのスピードで進化している。これは、人間の知的生活にも、間違いなく大きな影響を与える。地球環境も、日本各地で40度を超える気温になるなど、大問題になっている一方、世界中で再生可能エネルギーの導入速度が、大きく加速してもいる。これから、「完全循環型社会」と「生成AIの急速な社会実装」がどんどん進んでいくであろう。加えて、健康寿命と生命的な寿命が一致する「健康で長寿な社会」を求める声も、ますます高まっていくであろう。大きな方向性が見えてきた。(全2話中第1話)

時間:11:50
収録日:2023/11/22
追加日:2024/01/01

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●完全循環社会と生成AIとの協働がスタートする


 皆さん、あけましておめでとうございます。テンミニッツTV座長、小宮山です。2024年の年頭所感を述べさせていただきたいと思います。

 2023年をごく大ざっぱに振り返ってみますと、やはりコロナが一応収束したことが大きく、さまざまな活動が復活してきました。

 さらにはChatGPTが世界に衝撃を与えています。登場したのは一昨年(2022年)で、11月から年末に発売されたのが瞬く間に広がり、世界中に衝撃を与えました。これは信じられないぐらいのAI(アーティフィシャル・インテリジェンス、人工知能)なので、その後もどんどん進化しています。

 現に今も、一月経つともう違っている、というようなスピードで進化してきています。これは大きな潮流を作って、いわば人間の活動のほとんど全てといっていいと思いますが、知能が関係するほとんど全てのところに影響を与えます。場合によっては、根本的に変える可能性すらあるのだと思います。

 それから、「地球」自体が大変な問題です。日本のあちこちで40度というような気温を経験するような事態になり、みんな非常に困り、心配しているわけです。これに対しては、ずいぶん大きな変化が起きています。

 ポジティブな変化の一つは再生可能エネルギーで、その導入速度が急速に世界中で加速しています。もう一つは資源の問題です。これについては、「ビルを壊して作った鉄で車ができた」という極めて大きなことが実は起きています。これは再生可能エネルギーで都市鉱山を回して生活するという、いわば「完全循環型の社会」が実現できるという希望が見えてきた、ということです。

 一方でネガティブな話は「戦争」です。世界が注視せざるを得ず、第三次世界大戦が心配される戦争であるウクライナ戦争が終わっておらず、それから、ガザでは新しい戦争が起きています。戦争というのはアフリカや中東などでずっと起きているけれども、それは第三次世界大戦というようなことではなかったわけです。しかし、そのようなことを考えざるを得ないような事態、(つまり)戦争が勃発しているのです。このあたりが2023年の非常に大きなことです。

 では、2024年(今年)はどのようにどういうことが起こるだろうか。私は大きくいって二つ(あると思います)。

 一つは、今申し上げた「完全循環社会」です。人間が地下資源を掘って作る社会、そして二酸化炭素(CO2)を膨大に排出して地球の温度を変えていく文明が、次の完全循環社会では、地上にあるものを再生可能エネルギーで回していく社会。(つまり)地球が持続し、豊かで、全ての人の自己実現が可能にする、という「プラチナ社会」で物質的に不可欠なものが完全循環社会であるわけですが、そこに向けてスタートを切る年になると。

 もう一つは、「生成AI・人工知能」というものが急速に社会に入ってきて、人間との協働でいろいろな困難を解決し、新しい希望を作っていく、そういう年のスタートになるのではないかと思っています。
 

●再生可能エネルギー、都市鉱山、バイオマス成長分が新しい資源になる




 以上、申し上げたことを分かりやすくするため、図を使ってお話しさせていただきたいと思います。今のお話をまとめたのがこのパワポです。今はまさに人類の転換期にあり、社会の目的も、今まで資源と考えていたものも、産業も、大きく変わるということです。

 20世紀に目指してきたものはいわば物質的に豊かな社会でしたが、2050年にプラチナ社会を実現しようということになるわけです。

 具体像でいうと、今も多くの人はそう思っていますが、20世紀における資源は化石資源であり、鉄鉱石や銅鉱石などの鉱物であり、さらに食料などに使っているバイオマス。この三つが20世紀の資源でした。

 こうした資源が、2050年までに再生可能エネルギーに変わり、それから都市鉱山に変わる。バイオマスは今後も重要ですが、今までは森を切り開いて畑を作ったり、あるいは森を切っても新しく苗を植えていくことなしに切りっぱなしにしてきたりでした。イギリスなどは現在、美しいことは美しいのですが、森は切ってしまったので、田園風景です。そういう社会のままではなく、植物は毎年成長していくわけなので、成長する部分だけを使うという文明です。

 こういう再生可能エネルギー、都市鉱山、バイオマスの成長分が、新しいプラチナ社会の資源になる。そう考えると、日本は全てを自給することができる社会になるということです。これが先ほど私の申し上げた、物質面における完全循環型社会ということです。
 

●これからは「健康で長寿」「生きがい」を求める社会へ


 それから、今日はあまり(詳しい)内容はお話しいたしませんが、20世紀というのは、世界の平均寿命が31歳から73歳まで伸びたという世紀です。「長生きしたい」という人類の昔から抱いてきた希望が相当程度実現したのが、20世紀の豊かな社会でした。

 これからは、「健康で長寿な社会」というのが新たな目標になります。もう少しいうと、健康寿命と生命的な寿命が一致するところ(つまり、言葉は悪いですが「ピンピンコロリ」という言い方があります)、そういうところを目標にしていく社会になってきます。

 それから、20世紀は「モノが欲しい」といって成長してきた社会です。私の母の世代などがそうでした。お米をかまどで、薪を使って炊いていた頃に電気炊飯器が出てきた。これは、本当に欲しいものだったわけです。洗濯機が出てくる前も、タライと洗濯板というように、今ではご存じない人も多いのではないかと思いますが、それらを用いて洗濯していたわけですから、洗濯機というものが欲しくなった。

 サザエさんの世界ではほとんど毎日魚屋や八百屋に行っていますが、それは冷蔵庫がないから必要だったわけで、その頃は冷蔵庫が欲しかった。さらにクーラーだ、車だ、というように物が欲しいと思って成長してきたのが20世紀の社会でした。

 これらがかなり実現された現在、人は何を欲しいか。「自己実現」という言い方をしていますが、ありていにいえば「生きがい」ですね。そういうものを求める社会に変わっていくと(いうことです)。

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