・・・

企画立案、膨大な社内情報の整理、顧客対応…AI活用事例

Microsoft Copilot~AIで仕事はどう変わるか(5)AI活用のメリット

 

渡辺宣彦

渡辺宣彦 日本マイクロソフト株式会社 執行役員常務 エンタープライズ事業本部長

この講義シリーズを贈る

テキスト

私たちの日常生活や仕事に深く入り込みつつある生成AI。その汎用性やポテンシャルは歴史的にも画期的で、これからますます不可欠な存在になることは間違いない。私たちはどのようにそのAIを活用し、メリットを享受するのがいいだろうか。企業での実際の活用事例から、具体的に考えてみる。(全7話中第5話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)

時間:10:08
収録日:2023/08/01
追加日:2023/10/25

カテゴリー:

キーワード:

テキストをPDFでダウンロード≪本文≫

●画期的な汎用性を持つ生成AIの可能性が国家や企業で探究されている


―― 実際にマイクロソフトの製品にAIが導入されるとどうなるかということを、いろいろな形でお話しいただきました。実際どういうことができそうかというのは、これでだいたいイメージが立ったかと思うのですけれども、メリットとしてどういうことがあるのかと思うのです。そこをぜひお話をお訊きできればと思います。

渡辺 わかりました。AIを組み込んでいくことのメリットの部分ですね。ではお話をさせていただこうかと思います。

 今までの話の一部リキャップ(要約)になっているところもあるのですけれども、従来、使えていたAIというのは、比較的1つの要素に特化した、たとえば碁を打つなどの、目的に特化したモデルだったものでした。しかし、昨今の生成AIというのは、人間の英知を全部入れていますというふうに言いましたけれども、かなりさまざまな用途、それから人間の言葉そのものでもって使える、非常に汎用性の高いAIになっているということになります。

 これを実現したことによって、相当大きなインパクトが考えられて、前回(第4話)のCopilotのデモで皆さんも想像力をかなり刺激していただけたのではないかと思いますけれども、大きな反響をいただいています。

 1つには、国家レベルでいろいろな議論がされています。日本政府も、生成AIをどのように使っていくべきであるのか、政府自体が使っていくべきであるのかということを考えていますし、国内の企業、組織、学術機関等にどういう形で使っていってもらうべきなのかという議論を非常に活発に行っています。

 それから、多くは企業です。利益を追求するタイプの企業が、生成AIを自社に導入して、生産性を向上するということであったり、その企業の顧客に対して提供する付加価値を上げるということが、どうやったらできるのかに、熱心に取り組んでいただいているのかなというふうに思います。

 それから、3つ目の要素としては「プロンプトエンジニアリング」ということがあります。これは、ぜひ今回の講義の参考としてご記憶いただければと思うのですが、「プロンプト」というのは生成AIに対して与える、多くは人間の言葉で書かれたインプットということになりますので、いかに効果的なプロンプトを書くかということが、AIから正しく、より有益なアウトプットを得ることに役立つということがわかっています。

 AIをうまくトレーニングして、より高度で間違いのないものにしていくということで、もちろんその努力はやっていくのですけれど、一方で、それを使う側の人間も創意工夫をして、うまく使えるようにしていく。それを「エンジニアリング」というところにまで高めていくというところまで話が進んできているというのが、大きな反響ということになろうかと思います。
 

●企画案の「壁打ち」から問い合わせ対応まで…AIはいかに有用か


 では具体的に、お客様と言っても企業のケースが多いですけれども、すでにご利用いただいているケースがいくつかあるかと思います。

 一般に公開されているChatGPTではなくて、社員のために、組織の内部で使われるために用意された「壁打ちチャットボット」が、「こういう状態になったらどうなりますか」というような質問を一問一答型でやっていく中で、いろいろな「アイデア出し」であるとか、「情報の要約」「言語の翻訳」といったようなことをやります 。

 それから2つ目は、これはあらゆる企業や組織で起こってきていることではないかと思いますけれども、コンピュータが使われるようになってから莫大な情報がその組織の中に蓄積されていて、それを全部調べて、どういうものが有益なのか、どういうものが価値を生み出すことができるのかということを知るのがきわめて難しくなってきている部分があります。それを含めてAIに検討させて、「こういう対策はどうですか」といったようなことを提案させるというAIの使い方です。これはもうすでにされています。

 それから、もっとお客様フォーカスで、顧客に対して価値を高めるという意味においては、コンタクトセンターやコールセンターというのは1つの利用形態かと思います。ウェブサイトなどでの問い合わせを、従来ですと電話でだいぶ待たされた上にお話をして、ということになると思うのですが、そういう受け答えすべてをAIで対応するというような形の取り組みが急激に進んできておりますし、これからますますそういったユースケースが増えていくのではないかというふうに考えています。

―― 1番目の「壁打ちチャットボット」というのは、たとえば企画会議のようなときに、今の状況の中でどういう企画が考えられるかというようなことで投げかけて、いろいろなものが返ってきてというようなイメージですか。

渡辺 そうですね。企画内容を考えるというところに行かないまでも、情報を引き出すという意味でも使えるのではないかと思っています。

―― はい。

渡辺 たとえば「こういう事例は今までにありますか」であるとか、「どこそこの地域ではどういうことが行われていますか」というような「調査」に近いでしょうか。そういった情報の提供のようなことにも使えると思っていて、非常に有益なのではないかと思います。

―― なるほど。社内情報というのは、たとえば「皆さんが日報を書いています」というようなときとかに、その情報はだいたい死蔵されて終わってしまいますけれど、そうではなくて、「実は3年前の誰々さんがこんな人と会っていて」というようなことがポッと出てくるとか、そういうイメージです。

渡辺 おっしゃる通りですね。日報だけではなくて、たとえばお客様に出した提案書であるとか、いろいろなテキスト情報というのがあると思うのですけれども、そういったものを過去事例的に活用するというようなこともできると思います。

―― なるほど。そのようなことが実際に今進みつつあるのだというところでございますね。

渡辺 ありますね。はい。
 

●活版印刷や蒸気機関など歴史的な技術革新に匹敵するAI


―― それで、さらにどんな形になっていくのでしょうか。

渡辺 少し類型化をして考えると、これまでに、たとえば10年くらいのスパンで過去を考えると、クラウドを活用することによってコンピューティングの自由度を高めていきましょうというようなことがあり、われわれもそういう世界で仕事をしてきているわけなのです。5、6年くらいのスパンで考えると、デジタルトランスフォメーション(DX)という言葉が非常に流行りまして、たとえばロボティクスなどです。RPA(Robotic Process Automation=業務をロボットで自動化する仕組み) を皆さんもご活用されて、今もお使いになっているところもあると思いますけれども、デジタルな時代になってきています。

 それが、AIがデファクト化することによって、もっと大きなマグニチュードの高い変革を実現するということが非常に身近なものになっていくというのが、これから起こってくる変容ということになるのではないかというふうに考えています。

 それを少しマクロ的に見てみると、これは当社のCEOのサティア・ナデラが好んで使うスライドだそうですけれども、だいぶ長いスパンで言っていますが、1000年頃からです。

―― 1000年くらいですね。

渡辺 2000年を超えて21世紀に今入っているわけですけれども、世界のGDPの総額を見たときに、この成長率がどれくらいのスピード感でカーブを描いてきたのかということをプロットしているものなのです。

 活版印刷が1400年代なのでしょうか。それから蒸気機関は1700年代くらいに発明、普及をしたのかと思いますが、その後、社会のあり方を大幅に変えるような技術というのが矢継ぎ早に発明、普及されてきていて、飛行機であったり、化学肥料、トランジスタなどというものが並んでいます。

 それに匹敵する技術革新がインターネットであり、スマートフォン、クラウドであり、それからAI、とくに生成AIということになろうかと思っていて、この後の数年、あるいは数10年で、ここまで鋭角化してきているカーブをさらに上に持ち上げる力を持っているのではないかというのが、非常にマクロな意味で見たAI活用の効果ということになるのではないかというふうに考えています。

―― よく世界史の授業などでは、活版印刷の発明というのが非常に人類にとって大きいメルクマールになるのだというようなことを学んだりします。その後の蒸気機関もそうですよね。産業革命云々ということになりますが、今回のAIというものが、ある意味ではそれこそインターネットですとか、パソコンなどの流れの1つの到達点でもあり、また転換点でもあるというところですね。

渡辺 そうですね。もちろんこういった技術の蓄積があるからこそ実現することではあると思いますけれども、1つの転換点というふうに記憶されるのではないかというふうに、希望を含めて考えさせていただいているというのが今の立ち位置です。

・・・