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太陽電池も蓄電池も汎用品…原材料費の比率で戦略はわかる

日本の「新しい成長」実現のために(1)原材料費率から考える日本の戦略

 

小宮山宏

小宮山宏 東京大学第28代総長/株式会社三菱総合研究所 理事長/テンミニッツTV座長

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資源の乏しい日本は、原料を輸入して加工・製品化する加工貿易によって経済成長を遂げてきた。これを「原材料費率」という尺度で考えることで、日本の取るべき戦略が展望できるのではないか、と小宮山氏は語る。知識・技術集約型はもちろんだが、その原材料自体に、蓄電池・太陽電池が利用できる時代が到来しているからだ。(全4話中第1話)

時間:08:26
収録日:2023/01/31
追加日:2023/05/15

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●モノの値段を「原材料費率」で並べてみる


 今日は、これから日本がいったいどういうことで稼いでいくのかということを考えるための戦略として、一つの考え方を示してみたいと思います。



 この図では、いろいろな製品の価格を、それをつくるための原材料の価格で割った比を示しています。

 例えば一番左側に「電線」とありますが、電線の値段は、銅の値段と、それを絶縁する被覆のプラスチックです。これらの値段を足して1.2倍すると、それが電線の価格になります。要するにほとんど原料価格だということです。

 一方で右側、例えば「プリウス(自動車)」ですが、原材料としては一番重い鉄が大きくなります。それからいろいろなプラスチックなどを足していくと、ほぼ40万円になります。売価はいろいろありますが、約400万円とすると、原材料の10倍ということになるわけです。

 「ロボット」になるともっと高い。金属などのいろいろな材料を使っていますが、そうしたものの20倍から30倍ぐらいになります。また、材料にも「高機能材料」といわれるものがあります。こういうものは原料の10倍以上、100倍になるようなものも決して少なくないといったことがあります。

 ここで大事なのは、リチウムイオン電池のような「蓄電池」や「太陽電池」です。これらは、再生可能エネルギーを導入したり、新時代の自動車(EV)をつくったりするときにコアとなるような製品ですが、原材料費の1.4~1.5倍。つまり、電線と同様の汎用品だということが分かります。

 それから、ポリエチレンやポリスチレンのような汎用プラスチックといわれる普通のプラスチックです。極めて高機能の特殊なものでなく汎用のプラスチックであれば、1.2~2倍の中に入っているわけです。
 

●汎用品の戦略が自動車とは違う理由


 皆さんの中には、蓄電池や太陽電池は非常に高価な難しいものだと思われている方もいらっしゃるのではないかと思います。20年前はそうだったかもしれませんが、今やもうすでに汎用品になっています。6~7割は原料費が占めるようになっているのです。

 このような汎用の、原料に非常に近いものと、原料費よりはるかに高い売価のものでは、売るための戦略が当然違ってきます。

 グラフの右側にあるのは、みんな日本が強いものです。プリウスのように自動車の中でも高機能なものや、材料の中の高機能材料といわれるもの、またロボット、これらは日本の非常に強い分野であり、知識の蓄積や技術の蓄積といったものが非常に重要です。こういうところで、日本は非常に稼いでいて、強いわけです。

 汎用品のほうでも、それほど弱いわけではありません。ただ、原料が7~8割を占めていて、価格競争がものすごく激しいわけですから、原料の安いところでつくらないとならない。それも大きな規模にして、生産性を上げていかないといけない。こういうものでいうと、日本は例えば住友化学などがサウジアラビアに汎用プラスチックの工場をつくっています。どうしてそういうことをするのかというと、原料費の占める割合が非常に高いからで、原料の安いところに行っているわけです。

 また、汎用プラスチックの典型的なものの一つに塩化ビニール(塩ビ)があります。塩ビの世界一のメーカーは信越化学というところですが、これも原料の安いところを求めてアメリカでつくっています。しかも熾烈な価格競争に勝ち抜くためにどんどん投資をして、世界最大規模で、原料の安いところでやれば、こういう分野でも勝てるし、それはそれで非常に大きな利益を上げることができるのです。
 

●蓄電池における日本の戦略


 蓄電池(リチウムイオン電池)や太陽電池というものがすでに汎用品の範疇に入ってきているということは、極めて重要なことです。これを考えて、日本は勝負をしていかなくてはならないのです。

 私は太陽電池の研究もやっていまして、初期に日本が圧倒的に太陽電池でリードしていた時代を知っています。ですから、今や生産のほとんどを中国に持っていかれたということを極めて残念に思っているほうですが、これから逆転することを考えるのか。

 70パーセントは太陽電池をつくる材料のコストです。一番高いのはガラスで、それを支えるアルミニウム、さらにはそういうパネルを載せるための架台などがコストの中心です。決して発電するための難しいところがコストの競争力にはなっていないわけです。

 そうだとすればメンテナンスや劣化してきたときのリプレースなどのところが、今後の循環社会における鍵になってきます。そういうところにビジネスを持っていこうという柔軟な考え方、つまり、そういうところで儲けることが日本にはできるのではないかと、私は思います。

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