実は2週間前の土曜日、オーディションを受けました。
某国立大学医学部の教育ビデオ・・・
僕が受けたのは、ちょっと気難しい医師の役でした。
主役は、女医さんで、まあ、彼女に対立するような役どころ。
で、1週間後の土曜日、事務所から連絡があって
「決まりました。
ただ、役は変わって、主役の女医さんの役を
男性役に書き換えて、それに、なりました。」
エ~~~?
驚いたのは、主役変更でも
その役柄が、
(全体のリーダーで、公正、正義の人。
医学の発展と患者さんの利益を優先・・・)
ということでもない。
だって、主役で正義の人なんて、
まさに僕にぴったり、でしょ?
困ったのは、セリフが膨大なのだ。
全体は4部構成になっていて
1部、2部は会議のシーン。
もちろん出ずっぱりで、冒頭と最後にはそれぞれ長~いセリフがある。
4部は、冒頭と最後に、独白とナレーションの長セリフ。
撮影は、6日後の金曜と日曜日。
無理無理無理無理無理・・・・・・・
電話で絶叫する。
ただでさえ、この頃、物忘れがひどい、
暗記力も、もう絶望的・・・
セリフの暗記さえなけりゃ
役者業は、本当に天国なんだけど。
「4部のラストは、プロンプター(まあ、カンニングペーパーのようなもの)を
用意してくれるそうですから・・・
とにかく、今届いた分の台本送りますから
頑張ってくださいね!」
と、鬼マネージャー・・・・・(いつかこいつは殺す)
嬉しいような悲しいような、切羽詰まった日々が
この瞬間に始まった。
とにかく、金曜日の分を中心に暗記に取り掛かる。
こんな時に限って、仕事が忙しい。
実際、日曜から木曜まで
期限の来た図書の返還以外、
外に出ない。
食べるものは、ストックしてある冷凍食品と
インスタントばかり。
好きな読書も、パソコンのエッチ動画も
すべて封印して、
治療のの合間に、暗記、
寝る前にベッドの中で、暗記、
朝も、起床したら、とりあえず暗記・・・
で、泣きながら金曜日を迎えた。
もう、役者はやめよう。
大量の暗記は無理・・・。
これを、最後の仕事にしよう。
そう、決心しながら早朝から
撮影現場である某国立大学の附属病院へ行きました。
雪が積もっていた。
とても寒い朝だった。
予定時間をかなり越えたものの
午後7時に金曜日の撮影は終了(1部)。
撮影は・・・なんか、うまく行った。
それよりなにより、交渉の結果、
日曜日に撮影する2部の最後の長セリフと、4部全部、
プロンプターを入れてもらえることになった。
ルンルン!うれしい!
もう、何よりうれしい。
これで、何とかセリフ暗記のめどが立った。
で、2部のセリフをおぼえて、日曜日の撮影に行った。
控室に入ると、演出家とディレクターが
待ちかねたように入ってくる。
2人ならんで、深々と頭を下げる。
・・・何?どうしたの?
僕、何かしちゃった?
おもむろに演出家が言う、
「実は、機械のトラブルで
金曜に撮影した分がすべてダメになりました。
で、今日、もう一度、金曜日の分と
そして今日の分の撮影を、やりたいのですが・・・」
もう、いやも何もないでしょ。
やるしか。
で、予定をどんどん詰めて、すぐに撮影に取り掛かる。
もともと、今回のスタッフは優しくて
現場の雰囲気はとてもアットホームだったけど
もう、この日は、こちらが怖くなるくらい
スタッフが気を使ってくださる。
もう、現場では、何があるかわからないんだから
撮り直しは大丈夫です。
でも、心配なのは、金曜日のセリフ。
撮影終了と同時に、100万光年先に飛んで行っちゃったよ。
長ーい一日が始まる、
スタッフと出演者全員の信じられない集中力と“思いやり”で
9時前に、1部、2部の撮影終了。
あああ、大変だったけど、この充実感は何?
なんか、ワクワクうれしい。
そして僕を残して、他の出演者は帰る。
これから4部。
新しく追加されたセリフの下読みをしてると、
ディレクターが
「今夜は、ホテルをとりますから・・・」
と、徹夜覚悟の指令・・・
内容の打ち合わせ、訂正事項の確認
で、本番に入る。
さっきまで、ざわめいていた撮影現場が
静まり返る。
映像入りが2本。
ナレーションが2本。
時間がないので、テストなしのいきなり本番。
1本目、訂正箇所で詰まってNG。
テイク2、映像入り2本がいっぱつOK。
一応、別パターンも撮影、いっぱつOK。
さっき原稿をもらったばかりのナレーションも
2本とも、いっぱつOK。
時刻を見たら10時20分。
「最終が間に合いそうなので帰ります。」
ディレクターがすぐにタクシーを手配、
10時40分に病院玄関に来てくれるそうだ。
着替えに控室へスタッフと走る。
「お疲れ様でした」
お互いにかわしながら、タクシーに乗り込む。
この、お疲れ様を言うとき、本当に幸福感でいっぱいになる。
金曜日、撮影の初日には
もう、役者はやめようかなとよぎったけど
やっぱり、続ける。
この、充実感や達成感は捨てることができない。
JRのホームで、最終の新快速を待ちながら
あわただしかった今日一日を振り返る。
そして、この役をいただいた1週間前からのことを。
やっぱり、役者業、続けよう。
すべてが中途半端で
いろんなところで、まわりに迷惑かけているけど
僕には、これは必要だ。
綱渡りの生活でいいじゃないか。
59年間こうしてきたんだから
このさき41年ぐらい、
この生活を続けて行こう。
いま、次はどんな役が来るかドキドキしながら
待ってます。