お金を払うことにより目的がお金にすり替わってしまうことがある。これは前回の例でいうと人助けのためならやるが、「報酬」が発生することにより目的が「お金」に変わってしまった結果「お金」目的なのであれば3000円ではやりたくないということです。
目的がお金にすり替わるということをより分かりやすい研究があります。
アメリカで「落ちこぼれゼロ」といった政策をやった時に実際に起きたことであります。教師は元々子供が好きで教育のことちゃんと考えている人達がなると思います。
そんな中「生徒の成績が上がったら、年収を数百ドル増やします」と政策が打たれました。さてお金でモチベーションは上がったのでしょうか?教師たちはそのために苦労しても「それしか給料が増えないのか」とがっかりして教育の質が下がってしまったのです。
社会的なモチベーションと金銭的なモチベーションは共存できないからです。
社会規範と市場規範は交わることが非常に難しい。一度社会規範から市場規範への関係性に移ったものは特に元に戻すのが難しいのです。社会的交流に市場規範を導入すると社会規範を逸脱し、人間関係を損ねることになります。
では、一度この失敗をしてしまうと元の関係に戻すことはできるのでしょうか?
このことについてカリフォルニア大学のウリ・二―ジー教授とミネソタ大学のアルド・ルスティキーニ教授が社会規範から市場規範への切り替えの長期的な影響を調べた研究があります。
イスラエルのある保育園で子供たちを迎えにくるお母さんがしばしば遅れてくるということが続きました。保育園としても決められた時刻に迎えに来てくれないと困ります。そこで、お迎えの遅刻を防ぐために罰金を取ることにしました。1時間遅れる毎に10ドルを取るのです。これで遅刻するお母さんは減ると保育園側は考えました。 ところが逆に遅刻する人は前よりも増えてしまったのです。これは一体どういうわけなのでしょうか。こ の理由は行動経済学でいう「社会規範」と「市場規範」という二つの行動原理で説明できます。定時に迎え に行かなければならないというのは言わばルールです。みんなで守らなければならない性質のものと考えら れます。これが「社会規範」と言われるものです。一方、遅れたら1時間につき10ドルの罰金ということ になると「みんなで守らねばならないルール」という考え方から「もし遅れても1時間10ドル払えばいい」 という発想に変化してしまうのです。つまりそれまでは遅れることに対する後ろめたさがあったのに対して、 罰金制度が始まって以降はそれを払いさえすれば義務は果たしたという気持ちになってしまうというわけです。この場合の行動原理が「市場規範」と言われるものです。すなわち1時間=10ドルという市場価格を 支払うことによって遅刻することに対する心の免罪符を手に入れることができるということになるのです。この場合は「やってはいけないこと」を「社会規範」で縛っていたのにそれを「市場規範」に変えてしまったのです。
しかし本当に面白いのはここからです。最も興味深いのは数週間後に託児所が罰金制度を廃止してどうなったのか?託児所は社会規範に戻ったはずだと思いきや、親たちの行動は変わらず迎えの時間に遅れ続けたのです。この実験からわかることは社会規範が市場規範と衝突すると社会規範が長い間どこかへ消えてしまうのです。
手助けをしてくれた人や親切な人についお金を渡したくなる方も多いのではないかと思います。しかし、何でもかんでも手伝った人にお金を与えていくと社会規範からの逸脱した市場規範に移る可能性があり、お金の関係性に切り替わってしまう恐れもあるようです。今後パートナーシップやマネジメントを考えている人はここについてはきちんと知らないといけないことかと思います。
「モチベーションを上げるためにはお金を与える!」これはどの企業でもよく取り入れていることだと思います。しかし、「お金」でやる気がそぐうケースもあるということを説明しました。では実際にお金を与えることによってモチベーションは上がり、更にそのモチベーションは持続するのでしょうか?それはまた今度
