僕は30年以上、競技の世界にいた。

いま教育者として、保護者さんからの相談を受けながら、改めて「人と競うこと・争うこと」について考える。


人から見ると、僕は他の多くのアスリートと同じように人に勝つことが好きな人間に見えているのかもしれない。


だけど、本当の僕は正反対の人間である。

もしも競うことが好きな人間なら、ASCスクールはきっと作れなかったように思う。もしくは、もっと違う形の教室になっていただろう。他人に勝つことだけを評価するような、嫌な教室になっていたに違いない。


いや、正しくはスポーツや競技をはじめる以上は勝たなければならない。プロを目指すなら尚更そうだろう。僕の両親も当初はそれをモチベーションにさせることが正しいと思って僕を頑張らせようとしたはずである。


ところが、僕がインラインスケートのハーフパイプ(VERT競技)において本当の意味でのびのびと頑張れるようになったのは、人と競うことをやめた瞬間からである。忘れもしない、中学1年生の時でした。


それまでは、他人である"相手"ばかりを見ることに集中していたばかりに、自分自身を見失い、インラインスケートが全く面白くなかった。そして、僕という人間は勘が鈍く、瞬発力もなく、運動神経も悪かった…。根っこがアスリートに向いていなかったのである。


小学生の頃は自分に合う戦い方がわからず、モチベーションも上げられないまま、自分自身にがっかりする日々が何年も続いた。こうなると、スケート一家に生まれた僕は自分自身に自信を失い、存在する価値さえわからなくなった…。マンションの最上階から下を見続ける日々があったほど、精神面が本当にギリギリの時期もあった。


だけど、そんな状況を踏ん張れたのは「憧れ」る想いがまだ残っていたからである。


自分の能力の低さにガッカリしながらも自ら取った最後の手段として、憧れを追いかけることにした。「開き直り」や「諦め」と言ってもいいような、戦いの最前列に居る努力は捨てて、自分なりに楽しむつもりで、憧れであったオーストラリア出身のセサ・モラ選手がやっていた"マックツイスト720"(前転2回転ひねり)という大技を〈完コピ〉して終わりにすることを目指した。


中学生の僕は、他のことは全て捨てて、たった1つ技を習得する為にだけ全力で集中したのである。いつも練習を見に来ては怒る父親が居ない時間ばかりを狙って、初めてたった一人で、自分自身と向き合った。


しかし、当時の僕はその回転技にチャレンジすることすら怖いようなレベルだった。世界でもセサ・モラだけができる技だったので、当然、この日本に相談できるような師匠は存在しない。


動きを分解し、必要と思う基礎練習を分析…!

文字通り、ビデオテープがちぎれるまでコマ送りでお手本をスロー再生し、いまの自分に足りないスキルや意識、スケート以外に必要となるトレーニングなど、初めて見えてきたものに興奮した。


何ヶ月も試行錯誤を繰り返し、技へのアプローチも大胆になっていった。何より、理解が深まることが楽しくて仕方なかった。


その技を習得できるようになった頃には、完全に研究に喜びを感じる自分が出来上がっていた。安床栄人としての根っこが育ったのである。


ASCスクールを受講してくれている方ならご存知のように、レッスンに出てくるメニューは主に自分自身と戦うように設定していますね。


他人に勝つことよりも、自分自身に勝つことのほうがよっぽどしんどいものです。年齢とともに諦める言い訳も理由も増えていくものだから…、小さい内から身に付けて欲しい考え方なのです。


また、アスリートクラスであっても、基本動作をしつこく繰り返します。重心や目線にも厳しくなります。これも僕が気をつけていたことです。


レッスン中の声掛けについても、全て僕が掛けて欲しかった言葉ばかり。頑張りを認めて応援する。コーチや親の操り人形にならないように、まずは自分でとことん考えて工夫をして、それでも悩むようなら声をかける。


僕が身を持って悩んできたこと、身に付けてきたこと、必要だと思うことの全てを、いまASCスクールで活かして展開させていただいています。


無駄はなく、最も伝えていきたいメッセージは、人に勝つモチベーションには他人がいなければ頑張れない"弱さ"が存在するということ。一方で、自分自身に勝つモチベーションは、どのような状況においても常に前向きに向上心を保つ"強さ"があるということを、子供のうちから理解して欲しいのです。


順位の付けられる大会も、チャレンジは自分のため。それにワクワクし、仲間たちとは共に高め合っていく。そうすれば、学ぶことや成長することの本質が見えてきます。


僕がメッセージを人に伝える手段が、ASCスクールのプログラムでしかないだけで、全ての生徒さんにアスリートになって欲しいと希望している訳ではありません。


でも、どのような目的・理由であっても、自分自身と戦う力を身に付けて欲しいと願っています。インラインスケートを、それぞれの生き方に上手く活用していただければ幸いです。


そんなことを思う木曜日の夜でした♪

おやすみなさい🙏


安床栄人のASCスクール