朝、ダムシアン王に挨拶を済ませた後、セシル達は身支度を整え、飛空艇へと向かうため部屋を出た。

 

セ「準備は良いな?」

 

ビ「ああ。」

 

 セシルの問いにビッグス達は頷いた。

 

 ローザとシドがセシル達の側へ寄って来た。

 

シ「わしらも飛空艇までついて行こう。見送ってやるぞい。」

 

 シドはニカッっと笑った。

 

セ「・・・勝手にしろ。」

 

 セシルはそっけなく答えた。

 

 

 

 ダムシアン城を出て、飛空艇へ向かう一行。

 

シ「お前さんら、あの母娘をミシディアへ送った後どうするんじゃ?」

 

 シドはビッグスに聞いた。

 

ビ「しばらくの間、俺達もミシディアに残るつもりだ。まあ、特にやることがなけりゃいる理由はないんだが。」

 

 ビッグスの横で小声で笑うウェッジ。

 

ビ「お前!何がおかしいんだよ!?」

 

ウ「いやいや、『マディアさん』が忙しけりゃいいなぁ、なんてさ。」

 

ビ「て、てめぇ!」

 

 顔を少し赤らめてウェッジに掴みかかるビッグス。からかうように避けるウェッジ。

 

シ「な~るほど!そういうことか!!」

 

 表情を硬直させたまま、顔だけシドの方を振り返るビッグス。

 

シ「守ってやるんじゃぞい。手を放すんじゃないぞ。」

 

 シドの目を見た後、ビッグスは視線をそらしながらも恥ずかしそうに頷いた。

 

 

 

飛空艇の係留地に到着した一行。シドが飛空艇の調子を確認した後、セシル達は1人ずつ飛空艇に乗り込んだ。そんなセシル達を搭乗口の前で見送るローザとシド。

 

シ「飛空艇の調子は万全じゃ!安心して飛べ!」

 

 無表情なままシドの顔を見て頷くセシル。

 

 ミシディアへ向かうメンバーの搭乗が終わると、セシルは飛空艇のエンジンをかけた。プロペラの旋回音が鳴り響き、次第に空へと向かう飛空艇を見上げるローザとシド。

 

シ「難しいもんだの・・・」

 

ロ「え?」

 

シ「船を空に浮かべるのも難しいが、人を腹の底から笑顔にするのも難しいもんじゃ。」

 

 2人は飛空艇の姿が小さくなるまで、その場に立ち尽くした。

 

 

 

 リディアに寄り添ったまま飛空艇の甲板から空を眺めるマディア。マディアの白く長いスカートの端を左手で握ったまま一緒に空を眺めるリディア。そんな2人を離れた場所から見守るビッグス。何も言わず機械のように飛空艇を操縦するセシル。その傍で操縦テクニックを盗もうとセシルをまじまじと観察するウェッジ。誰一人言葉を発っそうとしなかった。無機質なプロペラ音しか耳に入らない中、リディアが握っているスカートを引っ張った。リディアに視線を移すマディア。リディアの視線は飛空艇の外に釘付けになっていた。

 

リ「・・・お母さん、あれ・・・」

 

 マディアはリディアの指さす方を見た。何かがいる。小さな点にしか見えない「何か」が空中に浮いている。

 

 異変に気付いたビッグスはマディア達の側へ駆け寄った。

 

ビ「どうした?」

 

マ「何かが・・・こっちへ・・・」

 

 ビッグスもまたその「何か」に目をやった。小さな点は次第に「巨大な鳥」のような姿になり、それが「鳥」ではなく「竜」であるとマディア達が認識した時には、その「何か」はものすごいスピードで飛空艇の側まで接近していた。

 

 巨大な竜が飛空艇の上空を滑空すると、衝撃波が甲板を走り抜けた。

 

リ「きゃあ!」

 

 飛空艇が大きく揺れ、バランスを崩して倒れるリディア。そんなリディアを抱きかかえるマディアとマディアの肩を抱えるビッグス。背後へ飛び立った竜を見たセシルは声を上げた。

 

セ「バハムート!?」

 

 振り返るセシル。バハムートは遠くまで離れた場所でターンし、再び飛空艇に向かってきた。

 

 セシルは必死に舵を切って回避しようと試みるが、空を自由に羽ばたく竜とは異なり、小回りの利かない飛空艇では竜の猛襲を回避することは事実上不可能である。セシルもそのことを承知していたが、理性ではなく恐怖と生存本能が舵を大きく切らせた。

 

セ「おい!!また来るぞ!!倒れないようにどこかに捕まってろ!!」

 

 セシルは叫んだ。それからすぐにバハムートの巨体が飛空艇の真横を抜き過ぎた。そして、先のものよりも強い衝撃波が飛空艇を襲った。

 

リ「きゃあぁ!!」

 

 衝撃に耐えられず、マディアにしがみついていた手を放してしまい倒れそうになるリディア。マディアはリディアを抱きかかえようと、飛空艇の縁を掴んでいた右手を放した。さらに機体が強く揺れる。ビッグスは飛空艇の縁につかまったまま、甲板の上に倒れそうになったリディアの腕をつかんだ。顔を上げたビッグスの視界には飛空艇の外へ投げ出されたマディアの姿が映った。

 

 

 

 マディアと目が合ったビッグス。それと同時にビッグスの中の時間が一瞬止まった。

 

 

 

 

 

 

 (リディアを・・お願いします・・・)

 

 

 

 

 

ビ「マディアアアァァァァァァーーーーーー!!!!」

 

 マディアのいた場所の方へ駆け出すビッグス。

 

リ「おかあさーーん!!」

 

 ビッグスの後ろから駆け寄るリディア。

 

 マディアの姿は大海原に消えた。