秋季陸上大会。


駆け抜けた、11秒間。


アスリートは皆、その一瞬に全てを捧げる。




一瞬で最高に輝き、消える、流星のように。





ついにやってきた、夏の約束。





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その日の朝は少し肌寒く、秋の季節が徐々に

夏を飲み込んでいくかのようだった。



秋が夏をゆっくりと飲み込む。



夏の思い出も一緒に。



過去の思い出は、飲み込まれていくかもしれないけれど、

これからまた、新しい思い出が生まれていく。



この日の、陸上大会の日も、きっとそうなるだろう。




開会式。

各中学の代表が、運動場を行進する。


各中学が、本部席の前を通過するとき、

入賞候補の名前が呼ばれる。


"100メートル優勝候補"とスピーカーの

大音量を通して自分の名前が紹介される。


夏までの記録を見ればそうだ。

でも「今」の自分は、どうなんだろう。

走ってみなければ分からない。



開会式を廊下の窓から、かみゆと同じ中学の

生徒が人の列となって見ている。



どこかで見ているのかな?



少し自意識過剰。

たとえ見てたって僕のことを見ているわけじゃないのに。



そして開会式が終わり、大会が始まる。



プログラムでいうと、一時間後の100m予選に僕は登場する。



準備運動。そして完全に自分の世界に入る。

人を寄せ付けない雰囲気が、勝手に出てくる。



そして予選。



ゆっくりスタートラインに立つ。



少しだけゴールを眺め、位置につく。

僕の癖ともいえない癖。



ヨーイ・・・・



パンッ!




あっという間。




一位で通過したものの、タイムに納得出来ない。


少し凹み気味に、テントに帰ろうとすると、聞き覚えの

ある声がした。




「おつかれ~!一位じゃん!すごーい!」




あ、あれ・・・かみゆ。

制服姿が、何だか新鮮。




「授業じゃないの?」



「審判員の補助員やることになったんだー!」


「!!」


「あ、これ補助員かみゆからの差し入れのポカリ。次も頑張ってね~」


「あ、ありがと!」



嵐のように登場し、嵐のような仕事現場に戻る、かみゆ。



手の中でひんやりと、ポカリのペットボトルが自己主張する。




学校のテントに戻ると、かみゆと話していたのを

目撃されていて嵐のような問答攻めが待っていた。


「吉日、誰からもらったのかなぁ、このポカリ」

「あのコ、誰?かわいいよな」

「ひゅーひゅー」


少し赤くなる。



友達、だよ。



としか言えない。



客観的には事実。

主観的には嘘。




ポカリのペットボトルを開ける。


ポカリが体に染み渡る。



空を見上げた。



曇り空から少しだけ、日の光が差し込んでいた。






かみゆが見ている中、100メートル決勝が始まる。