夏が終わり、秋の季節がやってくる。
陸上大会。
各中学を代表した、地区大会。
そこでまた会える。
それは夏の約束。
約束っていってもただ雑談の中で、
応援してくれるっていっただけ。
今あの子は何をしてるんだろう。
授業中?雑談?
女友達と?それとも男友達と?
見えない時間。
僕の知らない時間。
ぼーっと空を眺めてる。
授業が終わり、陸上の練習の時間。
一ヶ月のブランクは正直きつかった。
自分の体じゃないってぐらい、足が重い。体が重い。
これを取り戻すのには、普通一ヶ月以上かかる。
だけどそんな時間はない。
ひたすら、そして黙々と、練習に没頭する。
一週間ぐらいたったろうか。
ベストに戻らない歯がゆさと悔しさで少しヤケになっていた。
陸上に対して少しプロフェッショナルな僕。
自分で自分を信じないと、ベストタイムは出ない。
走れど走れど、自分を信じることができなかった。
もっとやれる。行く場所がある。会いたい人がいる。
そう思うと、走るしかない。
朝練、夕練、夜練。
くったくたになって家に戻る。
プルルルル~♪
電話だ。
「はい」
「あの、私かみゆといいますけど、吉日くんは・・・」
「あ、、えっ?俺ですけど・・」
かみゆだった。
頭の中真っ白。くたくただったのが嘘のよう。
「げ、元気してた?」
「うん。私は元気だよー。吉日くんは?」
「走ってばっかだよ。」
「おーすごいね!青春だねー。」
かみゆに会いたいから頑張ってるなんて
言えるわけがなかった。
「よくうちの番号わかったね?」
「だって傘に書いてあって・・・」
「あ・・そうだった」
お互い笑う。
電話でつながる喜び。
ボタン一つで本人とつながる今とは違い、
電話をかける時は親が出たり、兄弟が出たりで
難関だらけ。
親父さんなんかが出たりすると、
ほんとにガチガチものだった。
お互い笑った後の空白。
何を話そうか、頭が高速フル回転。
かみゆが口をひらく。
「あのね、今度大会これそう?」
「うん。」
根拠のない自信。
体が仕上がってない今、
大会に出ても結果は知れてる。
だけど行きたい。
「じゃあ傘はその時返そうか?」
傘がつなぐ一本の線。
返さなくてもいいって僕には言えない。
「うん。いつでもいいよ。」
答えになってない。
「わかったー。」
まだ電話切りたくない。
もう少し、話したい。
「そういや、話すの模試以来だね。」
当たり前だ。学校も塾も違うのだから。
「そうだねー。どう、志望校いけそう?」
「何とか頑張ってる。」
頑張らない受験生はそうはいない。
「私どうだろー。あー頑張らなきゃね。」
「いけるよ。来年は同じ高校だといいね。」
「そうだねー。あ、ごめん、お兄ちゃんが電話使うって。」
「わかった。電話ありがとね。」
「うん。またね。ばいばい。」
「ばいばい―――。」
プツッ。プープープー。
終わった。
電話が終わった後になって、
こういう話があったとか、
ポンポン出てくるのは何故なんだろう。
電話番号も聞いていない。
好きなタレントも聞いてない。
次の約束も何もない。
また明日から、待つだけ。
ちょっとずつ、後悔が僕を侵食し始める。
考えたってしょうがないこと。
でも考える。考えてしまう。
ラジオから、オールナイトニッポンの
テーマ曲が流れ、僕の一日が終わる。
完全に僕は、恋に落ちた。
君に・・・かみゆに。