「NIAGARA TRIANGLE Vol.2」解説
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最終回に続いて、今回は積み残した話、いえ、とっておきのお話をお届けします。
第1章 ROCK'N' ROLL 退屈男
第2章 「 EACH TRIANGLE 2 」
第3章 いつも心にオレンジを
第1章 ROCK'N' ROLL 退屈男
1980年5月21日、CBSソニーから山口百恵の30枚目のシングルが発売されました。
宇崎竜童の作曲、萩田光雄の編曲による「ロックンロール・ウィドウ」はオリコン3位のヒットで、歌番組『ザ・ベストテン』では1位になりました。
同じ'80年5月21日には山口百恵のアルバム「メビウス・ゲーム」が発売されています。
「ロックンロール・ウィドウ」のアルバム・バージョンが同アルバムの1曲目を飾りました。
そして、2曲目が…、そう大滝詠一さんが提供した「哀愁のコニーアイランド」だったのです。
山口百恵 「哀愁のコニーアイランド」
山口百恵の初主演映画「伊豆の踊子」を思い浮かべたのか、もともとスラップスティック用に作ってあった「哀愁の三宅島」を、大滝さんは「哀愁のコニーアイランド」に仕立てました。
「哀愁のコニーアイランド」は、1980年のロンバケ・セッションでもあらためて録音され、セルフ・カヴァーする可能性もあったほど大滝さんにとって自信作でした。
「ロックンロール・ウィドウ」に競い勝って、山口百恵の30作目のシングルでもイケる…。
大滝さんは、そう意気込んでいたのかもしれませんね。
そんな経緯をふまえると…。
'82年の「ROCK'N' ROLL 退屈男」には、「ロックンロール・ウィドウ」との遠からぬ縁があると思うのです。
夫がロックンロールにのめり込んだせいで朝まで帰ってこない…。
人に聞かれたら、夫はとうに死にました、と答える…。
そんな妻の立場を言い表した曲のタイトルの意味は、「ROCK'N' ROLL 未亡人」。
なんとも奇抜な発想の歌詞の「ロックンロール・ウィドウ」ですが、それをヒントに大滝さんは、さらに珍妙な「ROCK'N' ROLL 退屈男」なる快作を編み出したのでしょう。
「ROCK'N' ROLL 退屈男」の主役は一見すると“ロックンロール好きで退屈な男”。
しかし、「ロックンロール・ウィドウ」をふまえて裏読みすれば、ブリティッシュ・インヴェイジョンによって'60年代半ば以降、“ロックンロール再興で退屈になったドゥワップ・ヒーローの男”のようにも思えてきますね。
たしかに、ナイアガラのドゥワップ・ソング、「ハウス・ペッパー (スパイス・ソング)」「Pap-pi-doo-bi-doo-ba物語(のデモ)」「星空のサーカス」に登場するキメ・フレーズ、「♪ パーンチ パーンチ~」が、この「ROCK'N' ROLL 退屈男」にも登場します。
となると、同じブリティッシュ・インヴェイジョンの余波を受けて、フォークロックへと移ろっていったサーフロックがテーマの「ハートじかけのオレンジ」と、「ROCK'N' ROLL 退屈男」とのカップリングは、意味ありげに感じられます。
さて。
「ROCK'N' ROLL 退屈男」の“退屈男”は、映画『旗本退屈男』のシリーズに由来します。
同シリーズでは早乙女主水之介(さおとめもんどのすけ)が活躍し、そのトレードマークは、額に受けた三日月型の“天下御免の向こう傷”でした。
この設定は「ROCK'N' ROLL 退屈男」の歌詞、「♪ 眉間の傷もハート型」に引かれていますね。
第1作の『旗本退屈男』(1930年)から『旗本退屈男 謎の竜神岬』('63年)までの30作で、主演を務めたのが北大路欣也の実父・市川右太衛門でした。
シリーズ最後の第30作には、美空ひばりもゲスト出演。
当時の榮一少年にとっては印象深かったことでしょう。
そのせいなのか、「ROCK'N' ROLL 退屈男」には、美空ひばりの主演映画『花笠若衆』(1958年)の主題歌「ロカビリー剣法」が、下敷きソングとして用いられています。
「ROCK'N' ROLL 退屈男」と「ロカビリー剣法」は、歌詞の組み立ても似ていますね。
では、「ロカビリー剣法」と「ROCK'N' ROLL 退屈男」と聴き比べてみましょう。
美空ひばり「ロカビリー剣法」
大滝詠一 「ROCK'N' ROLL 退屈男」
「ロカビリー剣法」のエッセンスは、実は大滝さんが新井満に提供した「消防署の火事」でも使われ、「ROCK'N' ROLL 退屈男」では分かりやすく再利用されました。
新井満 「消防署の火事」
「消防署の火事」の動画の0:36~0:43、1:16~1:23の箇所は、「ROCK'N' ROLL 退屈男」の1:14~の部分、すなわち「♪ 東はオリエンタル・ムード~西にダンスのニュー・モード~」以降で使われています。
「Water Color」ではちょっとずつ下がっていくフレーズとコード展開が用いられましたが、それとは反対に「ROCK'N' ROLL 退屈男」でちょっとずつ上がっていく展開になっていますね。
「ROCK'N' ROLL 退屈男」の歌詞カードを見ると、'70年代のナイアガラに逆戻りしたかのような錯覚を覚えます。
情報量が多すぎますが、順に見ていきましょう。
アーティスト名の表記は“大滝詠一”ではなく、“ 大滝詠一 with Jack Tones ”です。
この“Jack Tones”は、ご存じのとおりザ・キング・トーンズをもじった大滝さんの変名のコーラス・グループです。
しかし、「ROCK'N' ROLL 退屈男」で大滝さんの多重コーラスが登場するのは、ほんの一瞬です。
ザ・キング・トーンズといえば、1950年代後半から'60年代前半の曲を中心に歌い、ドゥワップ・スタイルを貫いているグループですから、“ 大滝詠一 with Jack Tones ”の意味するところは、“ドゥワップ推し”ということでしょうか。
=大滝さんがプロデュースした曲を収録したザ・キング・トーンズの「DOO-WOP! STATION」
アレンジャーの名義は、なぜか、宿霧十軒です。
宿霧十軒といえば、Jack Tonesのメンバーで、低音のベース・パートを歌うという設定になっています。
ベースといえば、「ROCK'N' ROLL 退屈男」のベース・ギターの長岡ミッチーさんの演奏はまるで歌っているかのようで素晴らしく、この曲のリズム・トラックの肝は間違いなくベースだと言って良さそうです。
宿霧十軒に話を戻して…。
低音ヴォイスの宿霧十軒は「泳げカナヅチくん」で、あの低音のリードボーカルを務めたことになっています。
「泳げカナヅチくん」から派生した曲「ハートじかけのオレンジ」とのカップリングで、宿霧十軒が「ROCK'N' ROLL 退屈男」の編曲をしているという、凝った設定になっているのですね。
なお、大滝さんによれば“宿霧十軒”を逆さにすると“軒十霧宿”になり、これはスティーヴ・マックイーン主演の連続テレビドラマ 『拳銃無宿』 にちなんだものなのだそう。
日本では'59年末から'61年末にかけてフジテレビで放送されていました。
スティーヴ・マックイーンは、 北の空の旅人よ「さらばシベリア鉄道」 の回に登場した映画『荒野の七人』(1960年)、『大脱走』(1963年)の両作ともに出演しており、榮一少年にとってスクリーン・ヒーローの一人だったのでしょう。
ヒーローといえば、歌詞カードの最後のデディケイションは、『旗本退屈男』の市川右太衛門に加えて、以下の諸兄へ捧げられています。
映画『多羅尾伴内』シリーズで七つの顔を持つ男として二丁拳銃で活躍した片岡千恵蔵。
“渡り鳥”シリーズで背中にギター、首にマフラーが印象的だった小林旭。
『嵐を呼ぶ男』や『風速40米』でもおなじみの石原裕次郎。
「ROCK'N' ROLL 退屈男」では、ドゥワップやロックンロールのフレーズの他にも印象的な一節が織り込まれていますね。
「♪ ポッ」=「ROCK'N' ROLL 退屈男」の0:23~、1:43~、3:00に登場
(旗本退屈男ネタで有名な西川のりおの漫才)
「♪ ふっふっふっふっふ」=「ROCK'N' ROLL 退屈男」の1:03~、2:29~に登場
(YouTubeで見るをクリック↑多羅尾伴内の動画の冒頭をお聞き逃しなく)
「♪ ナ~ナ~ナ~ヅッキ」=「ROCK'N' ROLL 退屈男」の1:00~に登場
(歌詞にやはり“東”“西”が登場するご存知、「うなずきマーチ」)
第2章 「 EACH TRIANGLE 2 」
「NIAGARA TRIANGLE Vol.2」の大滝サイドのうち3曲の共通テーマは“ちょっと大人のソフトロック”だと言えましょう。
「オリーブの午后」はザ・サークルや“ロジャニコ”の要素が挿入され、「白い港」はアンダース&ポンシアらによるトレジャーズのパフォーマンスが投影され、「Water Color」はクリッターズ、クリス・モンテス、ロニー&ザ・デイトナスなどソフトロックのかさね重でした。
そのクリッターズとアンダース&ポンシアは、ソフトロック界隈で極めて近い位置にいたのです。
クリッターズはアンダース&ポンシアによる曲も歌っていて、その逆に、クリッターズの主要メンバーのドン・シコーニが書いた曲をアンダース&ポンシアがイノセンス名義で歌っていました。
この例に限らず、「NIAGARA TRIANGLE Vol.2」の大滝サイドでは、大滝さんなりに一括りのイメージの中にある曲群を引用元にしており、それらの曲は互いに関わり合いを持っていました。
「ハートじかけのオレンジ」にもやはり同じことが言えて、“ブルー・バルボア”に象徴されるように、サーフロックからフォークロックへの移ろいがモチーフではあるものの、前回までの解説で縷々述べてきたように、「オリーブの午后」「白い港」「Water Color」とも様々なつながりがありました。
ただし、ソフトロックやフォークロックをそーっと下敷きにしたという大滝さんのコンセプトは、今日までも、なかなか一般には認知されなかったように思います。
「ロング・バケイション」は1960年代前半のアメリカン・ポップス全盛期の定石を詰め込んだ玉手箱。
「イーチ・タイム」は明確なブリティッシュ推しアダルト路線。
「NIAGARA TRIANGLE Vol.2」のイメージって、どうなのか。
奥ゆかしい大滝さんの口からは、かろうじて“リヴァプール・イディオム”というキーワードは語られましたが、結果的に「A面で恋をして」に集約される修飾語になりました。
ごく一般的な「NIAGARA TRIANGLE Vol.2」の大滝サイドへのイメージは「ロンバケ2」というものでボンヤリしており、世間の評価はなかなか定まらなかったように思えます。
それを受けて大滝さんの悔恨から生まれたのが、「 EACH TRIANGLE 2 」~「 EACH TIME 」だったのではないでしょうか。
もしも、「ロンバケ2」の呪縛から解き放たれていたら、「NIAGARA TRIANGLE Vol.2」の大滝サイドはどのような姿になっていたのかという大滝さんの構想を、今回の「NIAGARA TRIANGLE Vol.2 VOX」のDisc-2で追体験できるのですね。
「EACH TRIANGLE 2」の大滝サイド 曲目
09. 1969年のドラッグレース (EACH TRIANGLE 2 Version)
10. 恋のナックルボール (1st Recording Version)
11. フィヨルドの少女 (EACH TRIANGLE 2 Version)
12. A面で恋をして
13. イエロー・サブマリン音頭 (特別変)/金沢明子
1969年のドラッグレース (EACH TRIANGLE 2 Version)
その昔、れんたろうの名曲納戸の本宅 で、「1969年のドラッグレース」を取り上げましたが、後年になって大滝さん自身から、「それだけじゃないよ」とばかりに、さらに元ネタが明かされました。
下の動画「59番街橋の歌」、「ジェニファー・エックルズ」で聞かれるコード進行が、
「♪ あの日くるーまで 競争したーのさ 岬に誰が 早く着くか 賭けてね」
の部分で使われているのですね。
ただ、やはり「1969年のドラッグレース」には、英国のデイヴ・クラーク・ファイヴがてんこ盛りです。
サイモン&ガーファンクル「59番街橋の歌」(1966年)
ホリーズ 「ジェニファー・エックルズ」(1968年)
「1969年のドラッグレース (EACH TRIANGLE 2 Version)」はミックス違いです。
マスタリングの味付けのせいもあり、ボーカルのフレーズ末尾のニュアンスがはっきり聞こえます。
エンディングに“無音”部分があるため、「不良品ではないか」という問い合わせが殺到したとかしないとか(笑)。
従来の「1969年のドラッグレース」では、エンディングでエレキ・ギターのディレイのフィード・バック回数が“無限”に設定され、ループしていました。
「EACH TRIANGLE 2 Version」では、そのディレイ部分を逆再生して、“無音”部分へはめ込むプランだったのではないかと思います。
松田聖子への提供曲「Rock'n'roll Good-bye」のエンディングのように。
Twitterでその説を上げたところ、さっそく再現してくださった方がいらっしゃいました!
↓
●「1969年のドラッグレース (EACH TRIANGLE 2 Version)」のエンディング完成版(仮)(←下記のリンクが表示されない場合は、クリックしてTwitterでご覧ください)
面白そうなご意見を見掛けたのでチラリと https://t.co/ThMr2MNItE pic.twitter.com/bo8WC18n7A
— 夕ラ㋾ (@taraw_o) March 21, 2022
恋のナックルボール (1st Recording Version)
「1st Recording Version」を聴くと、「恋のナックルボール」ではマンフレッド・マンのリズム・パターンを拝借する構想だったのが分かります。
マンフレッド・マン「マイティ・クイン」(1968年)
ボーカル録りも含めてほぼ完成していたにも関わらず「恋のナックルボール」を大滝さんが全部録り直したのは、「1st Recording Version」のなんとも言えない“グダグダ感”が気になったためではないでしょうか。
逡巡の末、お蔵入りの可能性もあったのか、「1st Recording Version」のサビは「Tシャツに口紅」へ転用されました。
最終的に「イーチ・タイム」に収録されたバージョンでは、“マンフレッド・マン”の“ブリティッシュ・ロック”の要素は消えてしまいましたが、この大滝さんのプロデューサー的判断は正解で、テンポを上げて例の「スペシャルA」を足した結果、キャッチーさが抜群に増したと思います。
エバリー・ブラザーズとバディ・ホリーを足し合わせた「恋のナックルボール」の詳細は、あらためて2024年に…。
フィヨルドの少女 (EACH TRIANGLE 2 Version)
「EACH TRIANGLE 2 Version」では、基本的に、アルバム「スノータイム」に収録された「哀愁のフィヨルドの少女」バージョンのオケをバックに、大滝さんが全編歌い直しています。
歌い回しを大きく変えて、マッチ・ルータラが奏でたギター・フレーズに寄せているところが興味深いですね。
特にエンディングのボーカルは、「哀愁のフィヨルドの少女」のギターのフレーズそのままです。
ノーマル・バージョンの「フィヨルドの少女」ではこってりとエレピやシンセが鳴っていたため、“ジョー・ミークっぽさ”はすっかり薄まってしまっていたのですが、「EACH TRIANGLE 2 Version」ではそれらのチャンネル・フェーダーをぐっと下げてミックス。
エレピをばっさりカットしても良かったのですが、大滝さんは元ネタであるカスケーズのビブラフォンの雰囲気も残したかったのでしょう。
「フィヨルドの少女 (EACH TRIANGLE 2 Version)」は、イントロや間奏のマッチ・ルータラの北欧ギターの“泣き具合”と、大滝さんのボーカルとのコラボが絶妙にマッチしており、大成功していると思います。
The Mustangs 「 Fiord 」(1986年)
マッチ・ルータラやムスタングスのメンバーは元気にしているのでしょうか…。
イエロー・サブマリン音頭 (特別変)/金沢明子
「イエロー・サブマリン音頭 (特別変)」では、レコーディングで金沢明子が2回歌ったうちのもう1回の方の別テイクが使われていますが、やはり市販バージョンの方が歌の出来がよいですね。
「イエロー・サブマリン音頭 (特別変)」を聴いて驚いたのは、当初は「♪ みんな集まれ深海パーティー バンドーもうたうー」に続くミニ間奏が2回繰り返されていたことです。
つまり、市販バージョンでは2小節分カットされていたのですね。
大滝さんは「イエロー・サブマリン音頭」の編曲を萩原哲晶さんに依頼するときに、イントロは“例の”クレイジー・キャッツの「遺憾に存じます(=作・編曲:萩原哲晶)」でよろしく!とお願いしたのでしょう。
ビートルズの「抱きしめたい」(1964年)を「遺憾に存じます」(1965年)に引用するという斬新な試みを聴いて、往時の榮一少年はシビレたのかもしれません。
「大冒険マーチ」の方は、大滝さんが手掛けた「実年行進曲」に引かれていますね。
ハナ肇とクレイジー・キャッツ 「遺憾に存じます/大冒険マーチ」
「イエロー・サブマリン音頭」のエンディングには、ケアフリーズの「ビートルズに首ったけ」も混ぜこまれています。
そこで登場する大滝さんの一声は「YEAH~」とも聞こえる一方、「ハーイ!」の逆再生だという説もあり、検証が待たれます(笑)
The Carefrees 「We Love You Beatles」(1964年)
第3章 いつも心にオレンジを
「NIAGARA TRIANGLE Vol.2」が出た'82年春には、宣伝活動の一環でメンバーがハワイを訪問しました。
その時の模様は広く報道されましたが、週刊FMに掲載された写真には、大滝さんの手書きの一言が添えられえていました。
それが、「いつも♡(ハート)にオレンジを」。
実は、今回の「NIAGARA TRIANGLE Vol.2 VOX」のブックレットにも転載されています。
当時、ハートとオレンジといえば「ハートじかけのオレンジ」。
小説や映画の「時計じかけのオレンジ」の“オレンジ”は、“機械のネジのように社会に組み込まれたつまらない人間”というような意味で、それが “ハートじかけ” の “オレンジ” ならば、ハートウォームな人の心という意味になるのでは…。
大滝さんの言葉、「いつも♡(ハート)にオレンジを」も、そういう意味合いに繋がっていくのだろうと思いました。
しかし、よく見ると「いつも♡(ハート)にオレンジを」の下に「 Always To Your Heart Orange - Tail 」と書き添えられていたのです。
「Orange - Tail」って何なのか。
「Orange - Tail」は、「Trail」や「Tale」の誤記ではないかと最初は思いました。
「Orange Trail」ならこんなイメージです。
でも、編集者の人と「これ、どういう意味なんですか」というようなやり取りの末、掲載に至った写真のはずです。
「Orange - Tail」となると、分からなくなりました。
「いつも心(ハート)に」ときたら常識的には「太陽を」か「花束を」です。
一般的に英語で“オレンジテイル”といえば、オレンジの尻尾の鳥、魚、動物、爬虫類、はたまた人魚まで、いろいろ組み合わせが考えられます。
でも、「いつも心に尻尾がオレンジの生物を」っていうまわりくどい言い回しをするでしょうか。
レコードのオレンジの帯を“テイル”と呼ぶのか、いや呼ばない…。
ビートルズやCBS SONYのオレンジのレコード盤面のことか、いや“テイル”とは関係ない…。
「Tail」を矢尻だと解釈すればこんなイメージだけど、ちょっと“こじつけ”感がある…。
となると、残る“オレンジテイル”はコレでしょうか…。
「Orange tail to orange dahlia」
花火は夜空に広がる日輪のようで、大輪の花のようでもあります。
「いつも心に太陽を」や「いつも心に花束を」のイメージからも外れません。
「A LONG VACATION VOX」や「大滝詠一レコーディング・ダイアリー Vol.2」の資料を見ると、大滝さんの花火好きな様子がうかがえます。
「君は天然色」のトラックシートを見ると、18トラックにはシンセで作った『ピストル、花火、ビューン』が録音されています。
2011年のインタビューで大滝さんは、こう語っていました。
ピストルと花火音ですね。あれはシンセで作っています。
当時YMOで大忙しだった松武秀樹君に来てもらい、例のでっかいモジュラー・シンセでいろいろやってもらいました。
「ハートじかけのオレンジ」のトラックシートでは、スレーブ側の13、14、15、16、19の各トラックに『花火』が他のサウンドエフェクトとともに録音されています。
「ハートじかけのオレンジ」の歌詞には「時限爆弾」が登場するので、爆弾の爆発などの物騒な音が鳴っているのかと思っていたら、それらは全て“花火”の音なのですね。
「いつも♡(ハート)に花火を」は、「行く先をあたたかく照らす灯火(ともしび)を心に」というような意味になるのでしょうか、それとも「ドーンとはじける音楽的なひらめきとワクワク感を胸に」というようなイメージなのでしょうか…。
そんなことを考えてみた、先日の大滝さんの74回目の誕生日なのでした。
「NIAGARA TRIANGLE Vol.2」解説シリーズも、皆さまのおかげでようやく完結を迎えました。
長きにわたり、ご覧いただき誠にありがとうございました。