ご無沙汰です。
年度替わり、きっとみなさんお忙しいと思いますが、お元気にお過ごしでしょうか。
またしても呑気に映画のご紹介です。
別の作品について書こうと思っていたのですが、ちょっと気になる映画を観たもので…
主人公は、ニュージャージー州パターソン市に住むバス運転手のパターソン。
毎朝6時過ぎに目覚め、隣で眠る妻ローラにキスをし、仕事に向かう。
規則正しく穏やかに過ぎる彼の日常を追った映画です。
その生活には、時に思いがけないこともあったりはしますが、基本、大事件も悲劇も起こらない。
(いやパターソンにとってはかなりな悲劇も起こるのですが、それもまた"よくある日常"。そして未来への希望を思わせる出来事となります)
そんな平板で、しかし幸せな日常の中に、妻が語る夢の話や、偶然出会った少女の言葉などが何度も具現化して現れ、パターソン自身にしかわからない不思議なシンクロニシティのうちに、彼の大切な運命が示されていきます。
私たちもよく、あることについての"サイン"のようなものを頻繁に目にし、「これはなにかのメッセージなのでは」と考えたりしますが、これはまさにそんな"サイン"についての映画。(たぶん)
それは他の人に特別な意味は持たず、当人にしかわからない形でもたらされます。
そしてそれらが示す「運命」もまた、その本当の重要性は当人にしかわからない。
つまり、非常に個人的かつ内面的でひそやかな「啓示」というものについて、この映画はよく表現していると思うのです。
啓示を通じて、男は自分の「運命」を悟ります。
監督はスピリチュアルな意味合いを込めて作ったわけではないと思いますが、私にはそう思える映画でした。
その監督というのがジム・ジャームッシュ。
いわずと知れたインディペンデント映画の、もういまや巨匠です。
そしてジャームッシュといえばロードムービー。
登場人物が移動を重ねる中で人と出会い、出来事が起こり、それを淡々と描写していくことで人生のユーモアを感じさせる、てのがその作風なのですが…
いかんせん画面にもストーリーにも起伏が乏しいので、新進気鋭の映像作家として華々しく取り上げられていた若かりし頃から、その作品を観た人の感想の大半が「退屈」「面白くない」「何が言いたかったんや」でした。
この『パターソン』のレビューでも「意味がわからん」「眠い」「時間を返せ」の怒号がずらり(^^;
しかしこれ、いい映画ですよ。高評価のレビューも多い。
かつては「旅」を通じて人生を描き出していたジャームッシュでしたが、そもそも「人生そのものが旅」であるという風に作風が変わっていってるのだなと。
そして究極の定点観測、おそらく一度も生まれた土地を離れたことのないパターソンという男の、判で押したような毎日に、それでも起こる小さな奇跡のような出来事を通じて、「やはり人生は不思議で美しく、愛おしい」と言おうとしている。
ロードムービーとは対極の視点ですが、やはり彼の映画のテーマは同じなのだろうと思います。
※彼は兵役に就いていたようなので(ベッドサイドに軍服姿の写真がある)、"一度も生まれた土地を離れたことがない"わけではなさそうです、すみませんm(_ _)m
主人公のパターソンを演じるのはアダム・ドライバー。
そう、あのスター・ウォーズの"カイロ・レン"です。
カイロ・レンは迷ったり嫉妬したり怒ったりドス黒くなったりと忙しい役でしたが、今作のパターソンはきわめて穏やかで平和な男。
彼の別な魅力を堪能できます。
パターソンが詩を詠む場面では、ジャームッシュと同世代の監督、ヴィム・ヴェンダースの『ベルリン・天使の詩』を思い出しましたが、そういえばあの映画も詩人のペーター・ハントケが詩を書いていたなと。
もしかするとあの映画へのオマージュもあるのかな…
そう考えると、人々の日常の言葉にじっと耳を傾けるパターソンは、天使のようでもあります。
『ベルリン・天使の詩』も、観られる配信は限られますが、また機会があればぜひ。
恋する天使の物語です。
あと、この映画には"双子"が出てきます。
あれはツインレイを意味するのじゃないか、と思ったりもするのですが…どうだろう。
いろいろ書きましたが、この映画、またしてもプライム特典は
4月24日までです…
(こらー!!!!)
(すみませんすみませんm(_ _)mm(_ _)m)
いつもぎりぎりですみません…
日にちに追われないと観ない私が悪い…すみません…m(_ _)m
あの、上に書いたように、観ようによっちゃ非常に退屈な映画です。
なので、決して無理にはご覧になりませんように。
しばらく観て「時間の無駄」と感じたら即、離脱していただいて結構かと。
ただ、私も「きっと眠いだろうなー」と思いつつ、なんか面白くてするする2時間近く観れてしまったので…
ひとりの男の日常に現れる、ひそやかな啓示についてのお話。
もしよかったら。
~追 記~
『パターソン』にいろいろ謎が多すぎて疑問噴出なので、ちょっと調べてみました。
◆双子の謎
冒頭で妻がパターソンに話す、夢の双子の話。
以来、パターソンの生活には毎日1組の双子が現れ、そのうちの一人が口にした"Water falls"の言葉が、彼への"啓示"となる…
この流れがいかにも運命的で美しく、これはこれでいいとは思うのですが、それにしても双子が気になる。
意味ありげ過ぎる。
なのでもっとなにか…と見てみると、こんな記事がありました。
これを参考にさせていただくと…
パターソンを演じるアダム・ドライバーは、911のテロ事件をきっかけに海兵隊に入隊した経験を持ちます。
その後怪我により除隊を余儀なくされ、俳優の道へと進むのですが、そのまま従軍していればおそらくイラク戦争に参加していただろうと思われます。
この彼の軍人としての経歴は劇中にも反映されていて、映像には2度、軍服姿のパターソンの写真が映ります。
そして妻ローラを演じたゴルシフテ・ファラハニ、彼女はイラン人です。
イランと言えば上記の対テロ戦争の際、イラク・北朝鮮とともに"悪の枢軸"とされた国。
「アメリカ軍人」と「イラン人女性」…
もしかすると"別の人生"では対立する立場にあったかもしれない2人ですが、映画の中ではとても仲睦まじい夫婦として存在しています。
またゴルシフテ・ファラハニは、「女性は人前で歌ってはいけない」というイランで歌手の役を演じ、実際に歌手として活動し、自由を求める女性を演じてきた女優ですが、この映画で彼女が演じる妻ローラは、自由に歌を歌い、自分を表現し、女性として生きることをのびのびと謳歌しています。
これもまた"別の人生"を生きる彼女です。
つまり、ジャームッシュは演じる俳優の人生まで重ねて、登場人物の人生にに2つの意味を持たせているのでは、と思えるのです。
映画の中で、妻ローラが「子供を持つなら双子がいい?」と尋ねるのを受けて、パターソンは「いいね。一人に一人ずつ」と答えるのですが…
これは、2人それぞれにひとつずつ、双子のように同じようで全く違う、"もしかしたらあったかもしれないもうひとつの人生"が存在することを指しているのかもしれません。
風佳さんがコメント↓で「全く同じ姿に見える双子も、別人格で、別の人生があって」と指摘くださっていたのですが、そういうことなのかも。
規則正しく、バスの経路のように外れることのないパターソンの毎日ですが、頻繁に現れる双子は、常にもうひとつの人生が存在する いつでも運命は分岐していく可能性を秘めている、ということを表しているのかもしれません。
◆なぜ白黒
奥さんのローラが描くのはなぜ白黒の模様ばっかりなんだ、それに映画もなんで白黒??という疑問ですが、これはなんかわかる気が。
もともと、初期のジャームッシュの映画って白黒だったんですよ。
『ストレンジャー・ザン・パラダイス』とか『ダウン・バイ・ロー』とか。
これがまた「スタイリッシュだ」と評判になって、"カラーのジャームッシュ"の方がむしろ違和感あるように。
なので、もともとジャームッシュはモノクロ界の住人だったなと。
あとあの模様ですが、これも昔から、画面に幾何学模様がよく登場してたなぁと。
主人公がやたら印象に残るチェックのセーター着てたり。
わかりやすいのがこの『コーヒー&シガレッツ』↓
(Amazonプライムでも観られます)
頻繁に単調な模様のパターンが登場(ていうかもう炸裂)してます。
だからあのローラさんの白黒模様も、やや愛らしい「ジャームッシュ印」ということなのかなと。
白黒映画は、パターソン出身のコステロの映画で時代ものだからだろうし、それにやっぱり"ジャームッシュ印"でもあるのかもしれません。
◆アーハー!と詩人の正体
そして!
最大の謎(笑)、詩人・永瀬正敏の『アーハー!』ですよ。
これ、あっさり永瀬さんがインタビューで答えてました。
「フック(いわゆる"つかみ")」なんだそうです。
ジャームッシュは、前にも永瀬さん演じるキャラクターになにかちょっと気になる仕草なんかを当てて観客の印象に残るようにしていたそうなんですけど、それが今回は『アーハー!』だったよう(笑)
知り合いからのメールに軒並み“アーハー”が付いていたそうですから、"つかみ"の役割は充分果たしているかと。
いやもうこっちもガッチリつかまれちゃって、気になって気になってこの2日ほど返せジャームッシュ![]()
さすがです。
それから永瀬さん演じる詩人の正体。
"詩の神様なのでは…?"説が濃厚です(*^_^*)
映画の主人公は時々、人の姿を借りた神に出会う時がある。たとえば『パターソン』における永瀬正敏や『ビッグ・リボウスキ』のサム・エリオットがそうだ。サム・エリオットは『マイレージ・マイライフ』でも同じ役割を演じている。 pic.twitter.com/PCJLwe9LQR
— 町山智浩 (@TomoMachi) April 9, 2021
パターソンの"秘密のノート"に宿っていた「詩の精」?「詩の神様」?が、失意で詩作の意欲も失っていたパターソンの元を訪れて、新たなノートを手渡す…
指に巻かれた絆創膏は、ボロボロに破られてしまったからそれを治した(直した)跡なんですね(^^; 痛々しい…
清らかな生活を送る詩人のもとにはこんな素敵な奇跡が起きたりするんですね(*^_^*)
あ、あと、この映画"禅"ぽいな、と思ったのですが、ジャームッシュは昔から小津安二郎とかの映画に憧れてたかと。日本映画の、いわゆる"間"ですね。
それがこの映画に集約されたかなと。
この映画についてのジャームッシュのコメント↓、「本作品は、ただ過ぎ去っていくのを眺める映画である。」という言葉に、なんかやっぱり「禅」みを感じますね。
受け売り100%だし雑きわまりないし、まだいろいろ足りない部分があると思いますが、取り急ぎ。



