「仁志さんは元気なの?」
5月。
あれは、冷たい雨の降るインボイス・SEIBUドーム。
この日、仁志選手は、前日に続いて出場機会なし。
腰の痛みで先発を外れた小坂。
代役で起用されたのは川中だった。
試合後の駐車場、ふいに背中からタイトルにある言葉をかけられた。
これは、全国の巨人ファンの声を代弁したかのような、
地方から来たという家族連れのお父さんの声。
私が、仁志選手と帰り際に言葉を交わしていたのを見ていたという。
「元気ですよ」
私が短く答えると、
「そっか、腐ってるんじゃないかと思って心配したよ!」
そう言うと大勢の連れの元へと戻っていった。
2日後。
このやりとりを仁志選手に話した。
「若い頃は、やんちゃだったからね。
入って2,3年はめちゃめちゃやんちゃだった。
(腐ってるって思われるのは)
だから、その印象が強いんじゃない?
由伸だって二岡だって同じ立場になればそう言われると思うよ。
今は、与えられたこと以外は、自分ではどうすることは出来ない。
出る時に以前と変わらない、ブランクとならない準備をするだけ。
今の状況をベースに練習してるわけじゃない。
(今を)特別な状況だと思っていたら、出た時にだめになっちゃう。
控え(選手)の練習をしてるわけじゃないから。」
そして最後にこう言った。
「そもそも埋もれてるとは思ってない。」
4月は、先発がわずか5試合。
5月に入ってからは、この日まで先発出場はない。
私自身の問い掛けも、ここまでは、
逆境についての質問が多かったように思う。
しかし、この日の私の「取材ノート」の端には、
こう記されていた。
(出場機会の減少については、今日で聞くのはよそう)
これは、仁志選手の
「そもそも埋もれているとは思っていない。」
という言葉に全てが集約されていると感じたからだ…。